第2話 夢は屯(たむろ)する (その69)
源次郎は、ストリップを見た経験は何度かある。
生まれて初めて見たのが、京都の劇場である。
高校生だったから、誰かと出会う可能性のある大阪は避けたい気持が働いた。
だから、わざわざ京都まで出かけたのである。
それから、東京へ出てきてからは、何度か行った。
あまり金に余裕もなかったが、そこはやはり若い男である。
見たいものは見たかった。
それと、やはり監視の厳しい実家での生活から開放されたという心の緩みもあった。
全共闘の仲間たちともよく一緒だった。
だが、こうして、興行者の立場に近いところでそれを目にしたことはない。
21歳の大学生、いや大学生だった青年としては当たり前なのだが、今、こうしてストリップダンサーの付け人みたいな仕事をしていると、何か急に大人の世界に入ったような錯覚に陥る。
美由紀の舞台を見てみたいと思う気持もある。
だが、それは、従来、ストリップを見に行きたいと感じていたものとは全く別のような気がする。
美由紀の身体は既に見ているのだ。
しかも、その裸体に触れてもいる。
普通に行けば、今夜だって同じことになる筈だ。
なのに、一度は見てみたいと思うのだ。
とりわけ、先ほどの運転手、秋本が言っていた「バレエをやっていた人にしかできない舞台」というのが気にかかる。
それほどまでに「バレエ」を経験しているということが有名なのに、その「バレエ」に関わることではあまりいい思い出もないようなのだ。
辛い思いを引きずっているのに、どうしてそれを美由紀は敢えて自分の舞台に生かそうとするのか。
そこには、美由紀にしか分らない、特別な思い入れがあるのだとは思う。
それを理解してやれれば、と源次郎は考えるのだ。
だが、その一方で、舞台を見ると、美由紀への気持にどこかしら変化がありそうで怖い気もする。
今日も同じだったが、美由紀が自分の靴を源次郎に預けていくのには、何かしら、そのバレエと関係するようなものがあるのではないか、とさえ思ってしまう。
「シンデレラ姫」の話ではないが、その靴をそこにおいていくことに、何かしらの意味がある。
だから、その靴を脱いだ自分は見られたくない。
それが、源次郎を楽屋に立ち入らせない理由なのではないか。
美由紀は、佐崎美由紀ではない自分を、源次郎に見せ続けたいと思っているように感じるのだ。
会場からは、妖しげな音楽が流れてきている。
懐かしいような、それでいて、どこか物悲しいような音楽である。
「美由紀さんが登場するまでに、一度だけ会場を見ておきたいな」と考えたそのとき、奥のドアが開いて、美由紀が飛び込んできた。
「源ちゃん、私、帰る。帰るから、準備して!」
すざましい剣幕である。
「あちゃ!支配人が遂にやったか!」と源次郎が思った。
(つづく)
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。