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第2話 夢は屯(たむろ)する (その68)
源次郎は、美由紀がこうした光景をそのままに予測できていたのでは?という疑問にぶち当たる。

あの運転手は必ずやってくる。それも1人ではなく、誰かを連れてくる。
そこまでをちゃんと見通していて、あの色紙を書いたような気さえするのだ。
ましてや、ちゃんと本人とその連れには格差をつける。
それによって、互いが競うようになる。
そこまでを計算してやったのか?
だとしたら、多寡が20歳そこそこの女の子に出来る技ではないように思えるのだ。

兎も角も、源次郎の立場は美由紀に救われた。
美由紀さまさまである。
もし、ああして3人が来て、約束していたサインがなければ、あの秋本という男の顔が立たなかった筈である。
そうなれば、あんな笑顔は消えてしまうだろう。
昨日見せた、あの強面の雰囲気、いや、逆上という炎が点くだろうから、そんなものでは済まされなかったに違いない。
そう思うだけで、本当に身が縮む思いがする。


「何だ?あいつらは?」
傍で見ていた支配人がポツリと言う。
折角、これから源次郎と重要な打合せをしようと思っていたのに、とんだ邪魔が入った。
そんな、顔をしている。

「いえね、昨日乗ったタクシーの運転手さんです。劇場に来てくれたらサインを渡すって約束してたんです。ただ、それだけですよ。」
源次郎がのように説明すると、支配人は「ふん!」という顔をしてみせる。
折角、交渉の雰囲気が盛り上がったところに水を差された腹立たしさが見て取れる。
「でも、あれで、3人とも入場してくれるんですから、売上に貢献してるでしょう?」
源次郎は支配人に向って、多少、皮肉を言いたくなる。

「ところで、さっきの話なんだが・・・」
支配人が仕切り直しをしようとするのを、源次郎は次の言葉で押しとどめる。
「僕では話にもなにもなりませんよ。できると思われるんだったら、直接、美由紀さんに話してみてください。僕が言えるのはそれだけです。」
「そんなことを言うなよ。ミッキーに言ってもうんと言わないから頼んでいるんだ。」
「僕にはそんな力はありません。何しろ、誰かさんの指示で、誰でも出来る簡単な仕事をしているアルバイトなんですから。」
「いやいや、これこそ、吉岡君にはぴったりの仕事だと思って頼んだんだ。何しろ、あのミッキーが指名したんだぞ。それだけ、信頼があってのもんだろ。」
「それは、僕には分りませんよ。美由紀さんがどのように思われているのかなんて。でも、今度、美由紀さんが怒って舞台を降りると言っても、もう僕の力では何とも出来ないですからね。それだけは言っておきますよ。」

支配人は、もう何も言えなくなっていた。
残っていた缶コーヒーを開けて、自分で飲む。考えている。

「よ〜し、止むを得ない。当たって砕けろだ!」
支配人は、そういい残して、奥へと消えた。

源次郎には、美由紀が怒ったときの顔が思い浮かんでいる。

場内の方から、大きな拍手と歓声が響いてきた。
時間は11時。いよいよ初日の幕が上がるようである。


(つづく)





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