第2話 夢は屯(たむろ)する (その679)
「はい、今、中学校時代の先生が来られてまして・・・。」
おばちゃんは、いとも簡単にそう答えてくる。
「えっ! ちゅ、中学の先生?」
「はい、陸上部でお世話になった・・・。」
「た、尋ねて来られたんですか?」
源次郎は、美由紀の気持を心配する。
美由紀は、この小樽にあまり良い思い出を持ってはいないようだった。
だからこそ、今まで戻ってこなかったのだ。
そう聞かされていた。
それなのに、中学時代の先生がやって来たのだ。
会いたくなかったのではないだろうか。
源次郎は、単純にそう思った。
「たまたま、食事に来られてて・・・。
大八木先生って仰るんですが、あの子が卒業してからも、そうですねぇ、年に数回は“元気にしてますか?”とお尋ねくださって・・・。」
「・・・・・・。」
「それで、私があの子の耳に入れたんです。大八木先生が店に来られてるって・・・。」
「ああ・・・、あの時・・・。」
源次郎は、先ほど階段のところで美由紀とおばちゃんが何やら話していた場面を思い出す。
「私も、あの子がここでの昔に触れたくないっていう気持を知っておりましたから、先生が帰られるまでは降りてこないように言ったんです。」
「えっ! そ、それなのに?」
「はい。そう気を利かしたつもりだったんですが、どういう訳か、あの子、後で顔を出すと申しまして・・・。」
「そ、それで・・・。」
源次郎にも、今の状況だけは何とか飲み込めた。
「じゃあ、今は、お店の中で?」
「ええ、カウンターに座ってます。」
おばちゃんも階下の事が気になるらしく、それだけを言って、空いた食器が積み重ねられたお盆を持って階段を降りて行った。
(う〜ん・・・、どういうつもりなんだろう?)
源次郎は、美由紀の気持が分からなかった。
過去の自分には触れられたくない。
そうした意思がはっきりとあったように思えるのだ。
それならば、例えお店のお客だとしても、わざわざこちらから顔を出しに行く必要は無いだろうと思う。
おばちゃんだって、そうした配慮があって、その事実を美由紀に耳打ちしたのだ。
「しばらくは降りてこないように」と。
それなのに、美由紀は自分から降りて行ったのだ。
恐らくは、自分から声を掛けに行ったのだろう。
その気持がどうしても理解できない源次郎である。
(つづく)
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