第2話 夢は屯(たむろ)する (その659)
と、そのときだった。
そのT字路から、先ほどの男が慌てるようにして飛び出してきた。
そう、源次郎に支配人からの伝言メモを渡した男だった。
「ああ、す、すみません・・・。」
源次郎から声を掛けた。
調整室への道順を確認しようと思ったのだ。
男が振り返る。
「ああ・・・。先ほどは・・・。ご、ご案内します。」
男は、どうしてか、源次郎の顔を見てほっとしたような顔を見せた。
「えっ? 良いんですか?」
源次郎は、この男にも仕事があるだろうと思って言う。
「オヤジさんに、叱られました。
どうして、ご一緒しなかったのかって・・・。」
男は、頭を掻くようにしながら言う。
「オ、オヤジさんって?」
「し、支配人のことです。」
「ああ・・・、そうなんですか・・・。」
「気が利かねえんだから・・・って・・・。」
男はそうした話をしながらも、源次郎の前を行く。
それも、やや急ぎ足だ。
早く呼んで来いと言われたのだろう。
源次郎には、そうしたときの支配人の顔が思い浮かべられる。
やがて例の階段のところにやってくる。
源次郎が記憶していたよりも、かなり奥まったところだった。
「お、音がしますんで・・・、お静かにお上りください。」
男は、精一杯の気配りをする。
源次郎もそれは分かっていたから、黙って大きく頷いてみせる。
そして、男の後ろを付いて、階段を昇り切る。
静かに昇ったつもりでも、この場所を熟知している者ならその気配を感じるのだろう。
中からドアが開けられて、支配人が手招きをしてくる。
それを見た男は、自分の身体を端に寄せて、源次郎を部屋の中へと入れる。
そして、自分はまた階段を降りて行った。
「ど、どうも・・・。」
源次郎は、まるでヒソヒソ話でもするかのような声でそれだけを言った。
舞台が進行していることが頭から離れない。
その視線の先には、当然にだが支配人がいる。
その支配人は、自分が座っている椅子の傍に折り畳み椅子を持ってきて、“ここに座れ”とでも言うように指を差す。
源次郎は、黙ってその椅子に腰を下す。
だが、支配人がじっと見ている舞台の方向にはとても視線を向けられない。
そこには、舞台で裸体を晒す美由紀がいるからだ。
(つづく)
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