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第2話 夢は屯(たむろ)する (その60)
ルームサービスで朝食をとって、それから美由紀は昨日と同じようにシャワーを浴び、全身にローションをしっかりと塗って、舞台への準備をする。

もちろん、源次郎は、同じようにしっかりとサポートをする。
昨日は、初めてのことで、美由紀の裸に翻弄される場面もあったが、今日は美由紀が何をどうしたいのかはおおよそ事前に読めるようになっていた。
たった1日なのだが、源次郎と美由紀には、何かしら不思議な阿吽の呼吸と言うものが感じられるようになっていた。

それは、美由紀がほとんどイライラすることなく着々と準備が進んだことでよく分かる。


予定より30分早く出られるようになった。
そうなれば、また、美由紀は今日も歩いていくのだろうな、と源次郎は思っていた。
そして、案の定である。

「源ちゃん、歩いていこうよ。美味しい珈琲飲ませるお店があるから、そこに寄って行きたいんだ。」
美由紀がそう言う。
「はい、では、ご案内をよろしくお願いいたします。」
源次郎が茶化したようにそれに答える。

今日は、舞台に使うからと、化粧ケースの他に、小さなケースを持たされる。
ただ、これは手提げではなく、肩から掛けられるようになっていたから、運ぶのにも苦労はなかった。

昨日とは、途中までは同じ道を行く。
また、あの雑貨屋の前で、
「源ちゃん、何でもいいから、ガム買ってきて。源ちゃんの好きなものでいいよ。」
美由紀は、そう言って、千円を渡す。
「1個でも2個でもいいよ。お釣りは要らないから。」
源次郎は、質問も何もしない。
これには、何か訳があるだろうとは思うが、訊くことはしないのがベターだと思っている。
昨日の煙草と言い、今日のガムと言い、そのものが欲しいのではなく、何かしら、その店に寄ることそのものが目的なのだ。
それだけで十分じゃないか、その理由なんて訊く必要はない。
源次郎は、そう考えている。

言いたくなれば、美由紀から話すだろう。それまでは、触らない。

「おはようございます!ガムをください。」
源次郎は大きな声で言う。店頭には誰もいないからだ。
そうすると、奥から昨日のおばあさんが出てきた。
「ああ、あんたは、昨日のお兄さん。・・・・」
それだけを言うと、もう源次郎のことなどどうでもいい、というように外を見やる。
そして、向かい側で待っている美由紀を指差して、
「ほんに、綺麗な人やなあ。お兄さんは、あの人のいい人かい?」
そう言えば、昨日来た時は「旦那さんか」と訊いた。
「いいえ、違いますよ。」
源次郎は、同じように否定する。
だが、どうしてそうしたことが気にかかるのだろう?と単純に思ってしまう。

「ガムをね、これとこれと、そしてこれも貰っておこうかな。」
「はいはい、袋にでも入れますか?」
「いや、このままでいいよ。それと、これでお釣りは要らないから。」
おばあさんは、受け取った千円を額に押し当てるようにして、受け取った。

そして、「お兄さん、明日も来て貰えるかね?」と言う。
「さあ、それはどうなんだろうね。僕は、あの人の指示で来ただけだから。」
と言うと、
「お願いだから、明日も寄ってくださいよ。婆からのお願いだって、あの人に伝えてください。」

おばあさんは、そう言って、もう一度外を見やった。


(つづく)



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