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第2話 夢は屯(たむろ)する (その589)
「じ、自転車ですか?・・・・・」
源次郎も酸欠状態で、まともな思考が保てていない。

「乗れるわよね。それぐらい。」
「まあ、・・・普通になら。」

「じゃあ、入って。」
美由紀は、店の前に座り込んでいた源次郎に、店の中に入るように言う。

よろよろとした足元だが、何とか呼吸だけは落ち着かせてきた源次郎が店の中へと入る。


「これ、使うから。」
そう言って美由紀が指し示したのは、店の中にあった自転車である。

それも、普通の自転車ではなく、後ろの荷台に相当な量の物を積んで走れるようになったものだ。
車体も頑丈に出来ている。

「こ、これは・・・」
「そう、お父さんが仕入に使ってる自転車。
少し重いと思うけれど、源ちゃん、ちゃんと乗れるよね?」
「・・・・これには乗ったことはないですけれど、まぁ、でも、乗り方の基本は同じでしょうから。」
源次郎は、少しぐらい重たくても、これなら乗れると思った。


「じゃあ、これ、外へ出して。」
美由紀がそう言って、店のドアを一杯まで開ける。
少しでも通りやすくするためだ。

源次郎は、持っていた美由紀の化粧ケースと、肩から提げていたショルダーバックをカウンターの上に置いた。
そして、おもむろに、店の中に立てられていた自転車を動かそうとする。

ハンドルを両手で握って、前に押し出す。
普通の自転車であれば、それだけで動き出す。
その筈だった。
だが、その自転車は、びくともしない。
まるで、店の床に固定されたもののようだ。

「あれ?・・・」
源次郎の口から、予定外の言葉が出た。

「どうかしたの?」
美由紀が怪訝な顔で訊いてくる。

「いえ、大丈夫です。」
源次郎は意地になる。
たかが自転車だ。動かせなくてどうする?


その時である。
重たかった自転車のハンドルが、すっと、前に移動した。


(つづく)




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