第2話 夢は屯(たむろ)する (その58)
不思議なものである。
今、枕を投げられたからではないと思うのだが、兎も角も背筋に一本筋金が入ったような気がする。
怖い顔だとは思うものの、ベッドの中からちょこんと首を出したような格好の美由紀を、多少可愛いと思う余裕がある。
顔を洗って、髪を梳いたせいかもしれない。
源次郎は、素直にベッドの傍に寄る。
その途中で、床に落ちた枕をそっと持ち上げ、両手で持って美由紀に返しに行く。
「ねぇ、ここへ座って!」
美由紀が駄々をこねるように言う。
「いえ、ここで結構です。ちゃんと聞こえますから。」
源次郎がまるで妹を諭すように言う。
「ねぇ、源ちゃん。源ちゃんは、どうして一緒にベッドで寝てくれなかったの?昨日、寝るとき、ちゃんとそう言ったでしょう?その方が温かいしって。」
「はい、確かに。でも、お1人のほうがゆっくり寝られるでしょうから、ご遠慮しました。」
「どうして、遠慮なんかするの?」
「それは、そうするのが当然だと思いましたから。」
「美由紀が決めて、頼んだことなのよ。」
「そこまでは、お仕事とは別だと。」
美由紀が少し考え込む。
「ねぇ、美由紀を女だと思う?」
「はい、それは綺麗な女優さんです。」
「・・・・そんな意味じゃなくて、美由紀を源ちゃんが女として意識するか?って、訊いているの。」
「はい、勿論です。」
源次郎は、意識してストレートに答える。その方が、これから先、やり易いだろうと漠然と考えている。
それを聞いただけで、美由紀はなぜか納得したような顔を見せる。
「ふ〜ん、そうなんだ。」
それだけ言ったかと思うと、「じゃ、起床!」と言って、被っていた布団を一気に跳ね飛ばす。
その下から飛び出してきたのは、何と全裸の美由紀である。
如何にカーテンが引かれていて、電気はつけていなくとも、その白い身体がまぶしく見えることには変わりはない。
「駄目ですよ。そんな格好でベッドから出ちゃあ。」
源次郎は、慌ててバスローブを探す。
昨夜、「おやすみ、先にベッドに入るから」と言った時に羽織っていたものである。
どこかにある筈なのだ。
周囲を見渡すと、それが美由紀のお尻の下に敷かれた状態であることに気がつく。
「お尻の下にあるバスローブだけでも羽織ってください。風邪、ひきますよ。」
源次郎は、そこには幾らなんでも手が出せないから、仕方なく、それと分るように指で指して言う。
「そう思うんだったら、源ちゃんが着せてよ。」
美由紀は、そう言ったかと思うと、わざとそのバスローブの上に座りなおしてみせる。
悪戯っぽい顔が、輝いて見える。
(つづく)
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