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第2話 夢は屯(たむろ)する (その57)
東京を逃げるようにして離れて、友人を頼ってこの小樽に来た。

それから数日間、あの安宿から動けなかった。
金がなかった。
遂に、大阪の母親に送金を依頼する。
「帰って来い」と言われたが、帰れなかった。

そして、昨日、何とか「これから」を描きたいと、町へ出て仕事を探した。

あの食堂の張り紙から、事が始まった。


昨日の朝には、全く想像だにしていなかった朝である。

二流だとは思うが、少なくともホテルで眠ったのだ。
しかも、女と一緒である。
「一緒にベッドで寝よう」と言われたが、さすがにそれは思いとどまった。
どうなるか、自信がなかった。


ぼゃあとしていると、指先が煙草の火で熱くなって、慌てて灰皿で消す。
「冗談抜きで、もう起こさなければならない」と考える。

下腹に力を入れなおして、源次郎はベッドルームへと向う。
そっと、ドアを開ける。
部屋の中はまだ薄暗い。
だが、ここで足を止めたら動けなくなるとわかっているから、一気にベッドに近づいていく。

「時間です、起きてください」と声を掛けた。
ベッドの膨らみの中から、返事はない。
再度、同じ言葉を掛ける。今度は、少しだけ大きな声になる。
ベッドの布団が少しだけ動く。

「電気つけたほうがいいですか?」
美由紀の起き掛けというものを知らない源次郎は、そう尋ねる。
これにも、返事はない。

だが、源次郎の声が届いたのは確かなようだ。
明らかに、布団の中で動きがある。

「じゃ、電気つけますね」と言って、スイッチのほうへ向ったとたんに、後ろから何かが飛んできた。
源次郎の頭に当たる。
だが、痛くはない。
振り向いて、何が当たったのかを確かめると、足元には柔らかくて大きな枕がひとつ転がっていた。
飛んできたであろう方向を見ると、美由紀がベッドの中から半身を起こした姿が眼に入る。

怒った顔をしている。
ほっぺたが膨らんでいる。

「おはようございます」と源次郎は軽く頭を下げる。
今の一撃でなのかどうかは分らないが、既に仕事モードに入っていた。

「源ちゃん!・・・・いいから、ここに座って!」
美由紀が相変わらずの怖い顔で、ベッドの横を叩くようにする。


(つづく)




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