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第2話 夢は屯(たむろ)する (その569)
「それ、何です?」
サキは、里山医師の名前が出たからか、少し緊張した様子だ。

「う〜ん、・・・・簡単に言うと、同じような病気と戦われた親御さんの手記だそうです。
まだ、正式に印刷されたものではなくて、本になる手前のゲラ刷りと言うものらしいです。
僕もまだ読んでいないんで、詳しいことは言えないんですが・・・。」
源次郎はありのままを説明する。


「健太と同じ病気の?」
「そのようです。」
「それを先生が私に読めと?」
「はい、これからのことに役に立つだろうということでした。」

「で、その子供さん、助かったんでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
源次郎は、言葉に詰まった。
この手記は、健太と同じような病気と闘った、親子の「闘病記」だとは聞かされていたが、その結末までは聞いていない。
無事に退院して、日常生活に戻れたのか?
あるいは・・・・・?
だから、言葉に詰まったということもあるのだが、サキが言った「助かったのか?」という一言に衝撃を受けたのだ。


「分りません。先生も、その点については言われませんでしたから。」
源次郎は、それしか言いようがない。

「そうですか・・・・。
でも、随分と分厚そうですねぇ。」
サキは源次郎の手元にある封筒を見て、溜息とも思える言葉を吐く。

確かに、これから長い闘病生活をやっていく人間にとっては、その原稿の分厚さが何を意味しているかが分るのだろう。
知りたいと思う気持と、あまりに厳しい現実ならば敢えて知りたくは無いという気持が交錯するのだろう。


「お渡ししておきましょうか?」
源次郎は、本当は一刻も早くサキに手渡しておきたいと思っているのだが、これから一旦自宅へ帰って、また直ぐに舞台のために動かなければならないサキに、今、ここでこれを持たせることが妥当なのかどうかについては、自分でも迷いがある。

だからこそである。
鞄から取り出して膝の上に置いたものの、それをまだサキに触れさせてはいない。
どのようなものなのかのイメージを与えるだけでも良いと思ってのことだ。


サキは、源次郎の膝の上にある封筒をじっと眺めたまま、しばらくは何も言わなかった。


(つづく)




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