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第2話 夢は屯(たむろ)する (その56)
突然の電話の音で源次郎は目を覚ます。

一瞬、そこがどこだかも分からなかった。


だが、それでも鳴り続ける電話で、現実に引き戻される。
飛び起きて、電話を取る。
「おはようございます。モーニングコールでございます。」

そうだった、そうか、もう朝になったんだ。
源次郎は電話口に向って、「ありがとう」とだけ言って受話器を戻す。

部屋の電気は点けっぱなしのままである。
実は、源次郎は、部屋が暗いと寝られない。
明確な理由は説明できないのだが、とにかく寝るときは部屋の電気は明るくないと駄目なのだ。
正直、怖いのである。暗い部屋が。

う〜ん、と背伸びをしてから、起きだすことにする。
パジャマを脱いで、昨夜、1人掛けの椅子に置いたシャツとズボンを着る。
少し寒いように感じて、鞄から薄手のカーデガンを引っ張り出して、それを羽織る。
それから、使っていた毛布を折りたたんで、顔を洗いにバスルームの脱衣場に備え付けられている洗面台のところへ行く。

鏡を見ると、酷い顔をしている。
髭が大分目立っている。
頭も、ボサボサの状態で、とりわけつむじの付近の髪が逆立つように跳ねている。
このままでは、美由紀の所へ行けはしない。
取りあえず、備え付けの歯ブラシと歯磨き粉を使って、歯を磨く。
それが終わったら、同じように備え付けのかみそりで髭を剃る。
あまり濃くはないから、簡単に剃れる。
最後に、蛇口から水を一杯に出して、顔を洗う。
洗うというより、水を顔で浴びるというのが正解かもしれない。
タオルで顔を拭いて、ようやく何とか起きたという気になる。

そのタオルを首に巻いた状態で、今度は両手で水を掬うようにして、頭に運ぶ。
2度ほど運んで、それから、頭全体をマッサージするように揉み解す。
そうでもしないと、源次郎の髪の毛は言うことを聞かないのだ。

それから、備え付けのブラシを使って、髪をセットする。
俗に言う七三分けである。
その髪型が似合っているとは思わないが、小学校の坊ちゃん刈りから卒業したときに、散髪屋で施されたのがこの髪型だった。
それ以外を知らないのだから、好きも嫌いもあったものではない。
中学校に入学したときにはじめたものだから、もう10年近く同じ髪型で過ごしてきたことになる。

取り敢えずは、何とか、見られるようにはなった。
そう思った源次郎だったが、さて、これから、と考えると、不安が広がってくるのを避けられない。


洗面台の汚れた部分をタオルで拭き取ってから、そこを出る。
ソファのところに戻ってから、時計を見る。
もう、美由紀を起こしに行かなくてはいけない時間なのだが、なかなか思い切れない。
「一服してからにしよう」と煙草を取り出す。
例の煙草である。
最初、何とまずい煙草だと思いはしたが、何度となく口にしていると、なぜかしら、違和感が薄れてくる。

煙草を吸いながら、昨日のいろいろな場面を思い出す源次郎であった。


(つづく)



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