第2話 夢は屯(たむろ)する (その55)
また、ひとつ気になることが頭に浮かんでくる。
煙草を吸って、その独特な刺激を味わうことによって蘇ったことである。
あの劇場にいた掃除のおばさん。
とんでもない不恰好な出会いだったが、そんなことよりも、この煙草をおばさんが吸っていたことが気にかかる。
「同じ煙草を吸う人を知っている」と言った時の反応は、とても普通ではなかった。
これが、さほど珍しくもない煙草だったら、そこまでは気にならない。
だが、源次郎は見たことも吸ったこともなかった。
そんな珍しい煙草を吸う人間を、この小さな世界で、一日に2人見たのだ。
あのおばさんは、どうしてこの煙草を吸うようになったのだろう?
そして、美由紀は、どうしてこの煙草を吸うのだろう?
決して、旨いとはいえない代物である。
ここでいくら源次郎が考えても答えの出るようなことではない。
なのだが、どこかに、繋がりがあるような気がしてならない。
その煙草を、今回だけは短くなるまで吸っていた。
そして、もうこれ以上は吸えないというところで、灰皿に押し付けて火を消す。
それだけ、迷ったと言うことになる。
源次郎は寝る準備をする。
ズボンとシャツを脱いで、鞄からパジャマを取り出してそれを着る。
そして、脱いだものを1人掛けの椅子の上においてから、ベッドルームへと向う。
ベッドの足元側に、寒いときに調節できるようにと考えたものなのだろう、薄手の毛布が重ねて置いてあったのを覚えていた。
それを取りに行くつもりなのだ。
そっと、音を立てないようにドアを開けて、部屋へ入る。
まるで、「夜這い」だなあ、と思う。
ベッドまで行って、その予備の毛布を取る。
そして、美由紀の気配を確認する。
どうやら、眠り込んでいるようだ。
入ったときと逆を再現するように、また、そっと音を立てないようにして部屋を出る。
そして、ドアをそっと閉める。
ようやく呼吸をする。
部屋にいる間、息を殺していたのだ。
少しだけ気が楽になって、源次郎はにっこりとした。
「ようし、これで寝られるぞ」
思い描いていた通りに、ソファに横になって、その上から毛布を被ってみる。
結構、温かい。
十分寝られる。
源次郎は、そう思った。
問題は、「美由紀が決めました」と言ったことへの不履行だけである。
これを知った美由紀がどのように出てくるか、それだけは多少不安ではあった。
だが、疲れた身体は、横になるとともに、どこからともなく睡魔をつれてきた。
ひたすら、眠りに落ちていく。
(つづく)
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