第2話 夢は屯(たむろ)する (その549)
「望月さんも大変だなあ。」
源次郎は頭が下がる思いだ。
昨日、アパートの下見に付き合ってくれたときに、持病の心臓発作が起きて救急車で運ばれたのだ。
幸い、あのアパートの大家さんが元この病院の医者だったそうで、事なきを得たが、そんな自分の身を押してでも孫である千尋の世話に奔走する。
あの年でだ。
里山医師が言っていた「長期にわたる戦争をやっている」との言葉が実感を帯びて感じられる。
待合室のドアを開けると、見知らぬ人の姿があった。
それも3人である。
源次郎はドアのノブを手にしたまま、入るか入らざるべきかを迷った。
その3人は、30代後半と思しき夫婦と、その子供のようである。
子供は12〜3歳だろうか。
男の子だが、頭には大きな包帯を巻いている。
まるで、白い帽子を被らされているように見える。
夫婦が源次郎を見て、軽く頭を下げる。
何度か感じたことだが、こうした病院では、顔を知っている知らないに関わり無く、会えば誰にでも頭を下げるか会釈をするようである。
どこの誰とも分らぬ相手にそのように接するのは、やはり「戦争をしている人達」だからなのかも知れない。
夫婦は源次郎を、病院の関係者か、あるいは自分たちと同じ立場の患者の家族のいずれかなのだと思ったのだろう。
じっと源次郎の顔を見つめてくる。
それを判断しようとしているようだ。
源次郎も、その視線に無言で答えるように、軽く頭を下げる。
だが、これで、ここで横になろうという考えは捨てざるをえなくなった。
そこに源次郎の後ろから部屋の中を覗き込む気配がする。
振り返ると、私服に着替えた里山医師がいた。
「鮎川さん、おはようございます。
今日、最終検査ですね。
担当の青山先生には詳しく事情を説明してありますから、安心してお任せくださいね。
きっと、良い結果が出ると思いますよ。」
里山医師が、部屋の中にいた夫婦にそう声をかける。
夫婦は、里山医師の顔を見て少しは安心したのか、わざわざその場で立って頭を下げた。
緊張の中にも、笑顔が見える。
「それはそうと、吉岡さん、お時間があるようでしたら、朝食ご一緒しませんか?」
部屋の前を去るとき、里山医師が源次郎に向かってそう言った。
先ほど、夫婦に見せた顔とは別の顔をしている。
(つづく)
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