第2話 夢は屯(たむろ)する (その52)
ドアのところまで行って、源次郎はジュースを受け取る。
運んできたのは、若いウエイターであった。
年は、源次郎より少し上かな?というような感じだ。
「お待たせを致しました。ご注文の、オレンジジュースとグレープジュースでございます。」
その若いウエイターが、馬鹿丁寧な言い方をする。
どうやら、この部屋が「佐崎美由紀」のところだと知って来たようだ。
盆に載せたジュースを渡すとき、ちらりと部屋の中を覗くような視線を送ってきた。
「はい、確かに。」
源次郎がわざと事務的に答える。
さっさと、出て行かんか!との思いがある。
そのウエイターにドアを閉めさせて、そこから先は源次郎がテーブルまで運んだ。
ふたつのジュースの入ったグラスを並べるようにして、美由紀の前にそっと置く。
「源ちゃん、どっち飲む?」
また、同じ質問を美由紀がする。
「どちらでも構いません。美由紀さんがお好きな方を取って頂いて、残った方で。」
源次郎も、また同じ答え方をする。
「だったら、両方を飲むわ。半分ずつ。その残りでいいのね?」
美由紀は、ようやくテレビから目を外してそう言う。
「もちろん、こ自由になさってください。」
源次郎は、そう言いながら、添えられていたストローを袋から出す。
「あっ!そんなもの要らないわよ。これで十分。」
と言ったかと思うと、美由紀はいきなりオレンジジュースが入ったグラスを手に持って直接飲み始めた。
ゴクゴクゴクと半分程度を一気に飲んで、そして、それを源次郎の方に差し出す。
源次郎がそれを受け取ったのを確認してから、今度は、グレープジュースのグラスに手を伸ばす。
そして、それも同じように半分程度を一気に飲む。
それから、また、同じように、残ったものを源次郎に差し出す。
源次郎は、多少驚きながらも、そのグラスを受け取った。
「ふぅ〜。美味しかった。後は、源ちゃんの分だからね。」
そう言ったかと思うと、また、テレビの画面を見始める。
源次郎の目の前には、ふたつのグラスが並ぶことになった。
それも、ジュースが半分だけ残ったものである。
風呂上りだから、喉は渇いている。
だが、源次郎は迷っていた。
どちらを先に飲むかではない。
そのグラスには、美由紀が口を付けた痕跡がはっきりとある。
そのグラスを貰って、同じように口を付けて飲むべきか、あるいは自分が取り出したストローを使うかをである。
だが、一瞬だった。迷ったのは。
美由紀の性格からして、今は「佐崎美由紀」だと思う。
だったら、グズグズしているだけで、何を言われるかも分らない。
そんなことでご機嫌を損ねるより、ここは、すんなりと同じようにして飲むのが正解だとろうと思う。
同じ順序で、源次郎はふたつのジュース飲んだ。
ただ、美由紀が口を付けていた部分は、意識的に外して口を付ける。
それが、礼儀だと思った。
(つづく)
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