第2話 夢は屯(たむろ)する (その51)
佐崎美由紀と美由紀。
この2人は別々なのだ、と源次郎は今更に思う。
自分が仕えているのは、佐崎美由紀。そして、今、話していたのは美由紀。
どちらも同じ身体を持った女だと言えばそうなのだが、源次郎はその中にこの2人が共存していると思えるのだ。
そう言えば、自分だってそうなのかもしれない。
本当は、大阪に帰りたい。帰って、母親の温もりに甘えたい。
だが、日本を変えるのだという理想理念に共鳴して、東京で闘争メンバーに加わった以上、それは男としてそう簡単に捨てられるものではない、という思いもある。
その狭間にいて、どうしようもないから、この小樽にいるのだ。
小樽にいる理由はない。だが、ここから離れても、行くところがない。
最終的には大阪に帰りたいのだが、それまでに、何かをやらなければならないと考えている。
ただ、それが一体何なのか、どうできれば、大阪に帰る気持になるのかはまったくわからない。
それと同じか。
源次郎は、すばやく身体を拭いて、綺麗に畳んである衣服を身に付ける。
シャツやズボンは真新しいものではないのだが、こうしてきちんと畳まれると、衣類を着るという感触になる。
不思議なものだと思う。
しかも、それは美由紀がいつの間にか畳んでくれたものだ。
一方では、自分の下着まで洗わせておいて、その一方では、こうして源次郎の下着までを畳んで見せる。
それは、互いの領域を相互に入り組ませるようなことだ。
自分の下着を洗わせているのが佐崎美由紀で、源次郎の下着を畳んだのが美由紀。
そんな感じがする。
一応の衣類を着て、源次郎は美由紀の洗った下着を入れた桶を手にしてそこを出た。
美由紀は、相変わらずバスローブのままでソファに座って、テレビをつけている。
何か歌謡シューのようなものが映し出されている。
「衣類を畳んでくださって、有難うございました。でも、どうして、ですか?」
源次郎は、まずは訊いておきたかったことを訊く。
「そんなことに、いちいち理由が要るの?・・・・気まぐれよって言ったらどう思う?」
美由紀がそう切り返す。
「気まぐれなんですか?それだったら、いいですけれど。」
それを聞いた美由紀は、くくっ!と笑う。
「これを干すのはどこですか?」
源次郎は、探りを入れる気持もあって、そう訊く。
「うん、ベッドのある部屋のところよ。ロープ張っておいたから。」
と、ベッドルームの方を指差している。
ベッドルームへ行くと、確かに、細いロープが、部屋の角に当たる窓の取っ手と取っ手の間に張ってあった。
そこに、今、洗ってきた下着類を掛けて干す。
これだけ薄いものだったら、朝までには乾くのだろうと思う。
そのときだ。
「源ちゃん、ジュースがきたみたい。出て、受け取って。」
と、美由紀が叫ぶ声がする。
「は〜い!直ぐに行きます。」
源次郎は、何かしら吹っ切れたような返事をする。
(つづく)
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