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第2話 夢は屯(たむろ)する (その5)
食堂を出ると、大男は、近くの空き地に停めてあった大きなトラックに乗り込み、助手席側のドアを開けて、源次郎に「乗れ」と合図する。
どこへ連れて行かれるのか多少の不安はあったが、仕事を紹介してくれると言うのだし、食事も奢って貰ったのだから、源次郎は断れない。
言われるままに、助手席に乗り込む。

トラックの中は、魚の匂いがプンプンする。
源次郎も魚は嫌いではないが、ここまで匂いがきついと、多少嫌味になる。
「魚を運んでおられるんですか?」と源次郎が訊く。
「ああ、そうだ。このトラック一杯に積んでな。だけど、兄ちゃんに世話する仕事はこれじゃない。もっと、楽しんでやれる仕事だぜ。俺も、もう少し若けりゃ、無給でもやりたいぐらいだ。」

10分も走っただろうか、大男がトラックを大型車ばかりが並んでいる駐車場に滑り込ませる。
一種の溜まり場のような雰囲気のところである。

「降りな。ここからは、ちょっと歩いてもらう。」と大男が言う。
源次郎は、「はい」と素直にその指示に従う。

アーケードの下を歩いていく。どうも、古くからある商店街のようである。

「ここだ。裏から入るからな。」
その大男に連れられて行った先は、何と「ストリップ劇場」であった。

「男でしかできない仕事」だと男は言っていた筈。
「飯もしっかり食え」と言われていたから、てっきり力仕事だと思い込んでいたのだ。
東京でも、小遣い、というより活動資金を確保するために、道路工事やビル新設工事の現場でアルバイトをした経験があったから、当然にそうしたものを想像していた。

それが、なんでストリップなんだ?と源次郎は思う。

劇場の裏手に回る。
「ちょっと、ここで待っとれよ。」
そう言って、大男は、へし曲がったような扉を押し開けて中に入っていく。
男が入っていった後には、何とも言いようのない匂いが漂っている。
どこかで嗅いだ匂いのような気もするが、これだ!と言えるようなものはない。

10分ほど、そこで待たされた。
仕方がないので、ポケットから取り出した煙草をくわえる。
マッチで火をつける。
一服しながら、煙草の残りの本数を数えている。残り3本。
何とか今日は持ちそうだが、明日にはまた買わねばならない。

そうしてそのドアの近くに立っていると、表通りから路地を伝って、女がひとりやってくる。
派手な衣装に、派手な髪飾りをしている。
「誰かの入り待ちかい?」
女が源次郎に訊く。近くで見ると、化粧がやけに濃い。
源次郎には、言われた意味が分からない。
分からないから、返事も出来ない。
「それとも、誰かのこれかい?」
女は、親指をぴんと立てて言う。
源次郎は、何も言えない。

「あはっ!可愛い坊やだねぇ。」
女は、そういい残して、大男が入っていった同じ扉を押して入っていく。

また、先ほどと同じ匂いが鼻先を通り過ぎる。

それにしても、こんなところで、男にしかやれない仕事って、一体なんだろう?
源次郎は、そこがどのような劇場なのかは分かっているつもりだったが、どう考えても、与えられる仕事の中身が想像できない。

まあ、何とかなるやろ。
源次郎は、そのように思うことにした。
行く当てもないのだし、寝る場所もないのだ。
まさか、命までは取られることもあるまい。

これが、源次郎、放浪の旅のスタートであった。


(つづく)




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