ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第2話 夢は屯(たむろ)する (その499)
そう言えば、そうだった。

里山医師は、自分から今夜の当直をかってでてくれたらしい。
千尋の呼吸の状態が芳しくないのに加えて、その千尋に付き添っている望月婦人が持病の心臓病の発作で緊急入院したからである。

その当直に備えて、夕刻、里山医師は食事に出かけていた。
場所は聞いてはいなかったが、恐らくはあの商店街の中だろうと源次郎は想像する。
その最中に、富が健太を連れてあのトラックに篭城したのだった。

それで、看護婦が行っている店に電話を掛けて、里山医師を呼び戻したのだ。
つまり、彼は、夕食を途中で放り出して、富の篭城事件への対応を迫られたのだった。


だが、里山医師は、源次郎にウインクをすることで「そのことには触れるな」と言っているようだ。
源次郎も、それを了解した。


「さあ、サキも晩飯まだだろう?早く食べろ。」
富は、サキを気遣う。
「先生も、好きなものを取ってくれ。」
そして、里山医師にもそれなりに気を使う。
「兄ちゃんも、良かったら食べてくれ。」
富からすれば、源次郎はこの中では最下位の扱いのようだ。
苦笑するしかない。
やはり、源次郎の後ろには、美由紀の姿が見えているのだろうと思う。


「ところで、お母さん、これから毎日通われるおつもりなのですか?」
箸を動かせながら、里山医師がサキに訊く。
サキは、口に物が入っているらしく、その口に手を当てるようにして頷いた。
「大変ですよ。」
里山医師は、少し重たい口調で言う。

「はい、それは覚悟しております。」
口の中のものを一気に飲み込んでから、サキがそう答える。
「看護婦さんが付いてもらう訳にはいかねぇのかなぁ。」
富が間から口を挟む。
「う〜ん、それが出来ればいいのでしょうが、今の制度ではとてもできる相談じゃないんです。看護婦の人数だって少ないですしね。とても、手が回りません。」
里山医師は、常識的な回答をする。
それが当たり前の現実なのだが、富にすれば、何とか病院で対応できないものかと考えるようだ。

「そこを、先生の力で何とか。先生は、偉い先生だって聞いてたのに。」
富の声が、力なく部屋中に響き渡った。

「あんたってば・・・・・・。」
サキが慌てて、里山医師に頭を下げる。
「無茶なことを申しまして。
決して、悪気があってのことじゃありませんので・・・。」
サキが冷や汗をかいている。


(つづく)




+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。