第2話 夢は屯(たむろ)する (その49)
美由紀が呉れた「信頼」を裏切ったような気がしている。
この2週間は、男を忘れるべきだとは思っていた。
忘れられると考えていた。
だが、ちょっとした心の隙間に、何かが入り込んだ。
頭は冷静さを失っていなかったが、身体は別なことを考えたようだ。
「どうしよう」と源次郎は思い悩む。
美由紀がどのように思っているかを、考えるだけで怖くなる。
仕事がなくなることは、どうも思わない。
なのだが、美由紀に「使えない」と言われるのが怖い。
それが、何故なのかは分らない。
湯船から出て、身体を洗う。
股間を洗うときに、「この馬鹿野郎が・・」と呟く。
だが、今は、反省したのか、全く反応もしない。
身体を洗い終わってから、洗濯に取り掛かる。
美由紀は一緒に洗っても構わないと言ったが、さすがに源次郎はそれは出来ない。
自分のものは後からにして、まずは美由紀の下着を洗う。
一応は、広げてみる。
何と何なのかを確かめるためだが、考えると異常な光景だと思う。
若い男が、女性の下着をしげしげと眺めている図なんて、まるでエロ本の中の挿絵のようではないか。
だが、それを許されてのことなのだ、と考えると、不思議な感じがする。
パンティーとストッキング、それにシュミーズである。
高級品なのかどうかは分らないが、いずれも非常に薄くてそれでいて柔らかである。
それが、美由紀の身体を包んでいたのだが、それを手にしても、今の源次郎に何らの感慨も起こらない。
石鹸を十分に泡立てて、美由紀の身体を洗った時と同じように丁寧に、かつ優しく洗う。
万一にでも、破ったりしたら、それこそ申し訳が立たないと思っている。
それらを洗い終わってから、今度は自分のブリーフとズボンを洗う。
憎たらしいと思う気があるのか、一転して、力任せに擦って洗う。
とりわけ、ブリーフに付いた自分の精液は、これでもかと言うぐらいに擦り付けて洗った。
すすぐのも適当にした。
それだけをしたところで、寒くなって、一旦、湯船に入りなおす。
身体を伸ばすと、改めて、ついさっきまで、この中に美由紀の身体があったことに気が付く。
だが、それを性的な側面から捉える余裕はない。
「素直に謝るか」
源次郎は、湯をかき回しながら、そう考えた。
その気持が変わらないうちにと、源次郎は急いで、風呂を出る。
洗い桶に、美由紀の下着類だけを小さく畳んで持って出る。
自分のものは、ざっと絞っただけで、風呂場の床に重ねておく。
まずは、美由紀のものを干す場所を考えなければ。
そう思って脱衣場に出た。
そして、自分が脱ぎっぱなしにしていた筈の脱衣籠が、棚の上に移動しているのに気が付いた。
「あれ?」
中をみると、脱いでいたシャツとパンツとズボンが、きちんと畳まれて籠の中に納まっていた。
(つづく)
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