第2話 夢は屯(たむろ)する (その489)
サキは椅子から立ち上がってから、また改めて里山医師に向かって深々と頭を下げた。
既に机のほうに向かっていた里山医師には見えないところでの行動である。
「何卒、よろしくお願いを致します。」
そう言ってから、サキと源次郎は廊下へと出た。
「良かったですね。里山先生が当直におられて。
今日、無理してでもこちらに来られただけのことはあったじゃないですか。」
源次郎は、そういって、今の顔合わせを喜んだ。
少なくとも、里山医師は、富に付き添いをさせることには消極的であったし、サキがこうして駆けつけてきたことは、明日からの検査や治療にも良い方向付けになるだろうと思ったのだ。
「はい、おかげさまで。有難うございました。」
サキは、そう言って、源次郎にもまた頭を下げた。
そこには、小樽で見ていたストリップダンサーとしてのサキはどこにもいない。
ただ、病院のあちこちで顔をあわせた、子供を入院させている母親の姿である。
「じゃあ、早速、健太君のベッドにご案内します。
富さんが痺れを切らせていると思いますよ。」
源次郎はそう言って、廊下を先に進んだ。
408号室を目指す。
サキは、半歩遅れて、源次郎の後ろを歩いてくる。
「8人部屋でね、同じような年頃の子供さんが一緒です。
もう、就寝時間だと言われていますから、きっと皆寝ていると思いますけれど。」
あまりに静かにサキが付いてくるので、源次郎は「何かを言わなければ」との思いでそんな話を聞かせる。
分っているのだろう。サキも、ただ頷くだけである。
408号室の前に来る。
小さく、ほんの小さくノックをしてから、源次郎はそのドアを開けた。
中は、照明が落とされていて、明るい廊下から入ると一層暗く見える。
「入って、直ぐの右手のベッドです。健太君は。」
サキを中へ入れるときに、源次郎が小声で耳打ちをする。
サキが黙って頷く。
「あれ?・・・・うちの人は?」
健太はベッドに寝ていたが、傍にいるはずの富の姿が見えない。
だから、サキはそれが真っ先に気になったようである。
源次郎も、周囲を見渡してみる。
奥にはまた他の子供が寝ているのだが、まさか富がそちらへ行くとはとても思えない。
確かに、この病室の中には富の姿は見当たらない。
「どこへ行かれたんですかねぇ。」
源次郎もサキの心配事に思いを重ねることになる。
(つづく)
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