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第2話 夢は屯(たむろ)する (その48)
源次郎は、いきなり湯船に飛び込んだ。

そうすることによって、何もかもを「なかったこと」にしてしまいたかった。


今朝、安宿を引き払って町へ出た。
どこかへ行く当てもなかった。
ただ、じっとそうしているだけで物事が解決するはずもなく、自ら何かの行動を起こさねば・・と考えてのことだった。
母親から送ってもらった金も、溜め込んでいた家賃を支払ったら4万円を下回った。
このまま、大阪への切符を買って乗ることも可能だった。
まだ、それだけの余裕はあった。
だが、どうしても、このまま大阪へ戻る気にはなれなかった。

母には会いたかった。
母の作る味噌汁が恋しかった。
それでも、家に帰れば、あの父とも会わなければならない。
それが辛かった。
大阪に帰れない。その理由は、そのひとつだけだった。

父は「なぜ退学になるようなことをした?」と聞くだろう。
「日本を変えようと思った」などという言葉が通用する相手ではない。
「なぜ、兄さんのような立派な人間になろうとしないのだ」とまくし立てるのだろう。
今更、何をどう言っても遅いことなのに、父はそうしたことをくどくど言うタイプなのだ。
自分が如何に努力して現在の地位や生活を確保したかという話が好きだ。
それを延々とやる。
聞かされる身にもなってみろ。溜まったものではない。
だから、そんなことにならないためには、大阪へは戻らないことだ。
それしか、思い浮かばない。

これから、どうして行くのか。
その答えがない。
あったら、こんな北海道までわざわざ来るものか、と思う。
当てにしていた友達がいたから来たのだ。
それが、当てが外れたのだ。
だったら、どうする?

町をふらついていて、あの食堂で「募集」の張り紙を見た。
それから先は、何かの力に引きずられるように今に至っている。
その間、自分でしっかりと考えて動いた結果など、どこにもない。
たまたま、偶然が重なって、ストリップ嬢の付き人みたいな仕事に出会う。

これだって、自分で望んだものではない。
ただ、何となく、流れの中に漂っているうちに、ここまで流れ着いたという感じだ。
だったら、最初に思ったとおり、駄目で元々と考えれば?
どうせ、この世界のことは知らない素人なのだし、出来なくて当たり前。

確かに、あの支配人に諭されたときは、そう思った。
どうせ、泊まるところもないのだし、なんとでもしてくれって。
やるだけやって、駄目なら、それで仕方が無い。
また、別を当たればいいんだから。

ところが、ここに微妙な変化があった。

それが、どうして、この風呂に入って、「まずいことになった。あれはなかったことに」と考えるのだ?
美由紀がどう感じたのかが、非常に気になって仕方がない。
何か、取り返しの付かないことを犯してしまったような罪悪感がある。

ぼんやりとした目線の先に、洗うつもりで持ち込んだ洗濯物が重なり合っている。
そして、それが「源ちゃん、落し物よ」と投げ込んできた美由紀の言葉を思い起こさせる。

(つづく)


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