第2話 夢は屯(たむろ)する (その479)
「ほらね。」
サキが源次郎の袖をひくようにして言った。
「さすがですねぇ。でも、どうして?・・・・・・」
どうしてそれが分るのかと訊きたかった源次郎だったが、そこまでを口にするまでに富が近づいてきてしまった。
「サキ、晩飯まだだろう?
そう思ってな、近くの仕出屋までちょっくら行って来た。
おう、兄ちゃんのも買ってきたから、一緒に食ったらいいぜ。」
富は、息を切らしながら、母親から頼まれたお使いを果たしてきた子供のような顔をして見せた。
「富さん・・・・・。晩御飯って・・・・・。」
源次郎は言葉にならない。
呆れてものが言えないのだ。
だってそうだろう。
改札口が他にもあるから、サキがどこから出るかも分らない。
だから手分けして・・・と言ったのは富である。
ところが、その富は、その時間に仕出屋まで行って夕食を買ってきたと言うのだ。
もし、サキがこの改札から出ないで、別の改札を通っていたら、一体どうするつもりだったのだろう。
「すみませんねぇ。お兄さんを騙すようなことをして。」
富の代わりに、サキがそう言って頭を下げた。
「実はね、うちの人も私も、この駅には慣れてるんです。
幾ら小樽に住んでいると言っても、舞台でのことやうちの人の仕事のことやらで、月に1度ぐらいは札幌に来ているんです。
車で来る事もありますけれど、やはり国鉄のほうが楽だということもありますし、この駅も何度も利用してるんです。」
「なんだ・・・・・、そうだったんですか。」
源次郎は騙されたとは思わないものの、自分の頭がそこまで回っていないことに少し腹が立った。
小樽と札幌。確かに距離はあるが、関西で言えば大阪と京都ぐらいだ。
頻繁ではなくとも、それは行き来があって当然だ。
ましてや富とサキはそれぞれに仕事を持っている。
北海道の経済の中心である札幌に来ないほうがおかしいのだ。
それに今の今まで気がつかなかったのが恥ずかしい。
「ですからね、うちの人は私が洗面所で着替えるだろうってことも知っているんです。過去に、何度か同じことをしていますから。」
サキは、そう言いながら、富の尻を平手で「バシッ!」と叩いた。
悪戯をした子供を躾けるように怒った振りの顔をしてみせる。
「あんた!・・・お兄さんに、ちゃんと謝りなさいよ。ごめんなさいって。」
「ああ・・・、もういいですよ。」
源次郎はそう言いながらも、自分にはこの2人の関係がよく分からないな、と溜息が出た。
(つづく)
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