第2話 夢は屯(たむろ)する (その47)
源次郎の男性が一人歩きをしようとしている。
女性には分るまいが、男とは、自分の身体でありながら、自分がコントロールできないことがよくある。
昼間の、劇場でリハを見たときもそうである。
やっちゃいけないと思いつつも、勝手に暴走されるのを止められない。
とりわけ、若いときは皆そうである。
行き着くところまで行ってから、あ〜あ・・・と後悔する。
それが、世の常である。
そうした危険性が、身近に迫っている。
源次郎は、必死で己を止めようとする。
止めようとすればするだけ、走り出したときの走力に加速度が付く。
それも分っている。
だが、ここは、簡単に走り出せる環境ではないのだ。
ここで走ったら、それこそ、何もかもがぶち壊しになる。
そうは思うものの、それを止める術を知らない。
源次郎の男が、美由紀の身体に当たる。
勿論、バスタオルという緩衝はあるものの、もはやそんなものは関係ないほどに膨張する。
「やばい!気付かれる!」と源次郎は思う。
だが、そう考えても、奴は無関心だ。
履きなおしたブリーフの中で、今にも走り出さんばかりにウォーミングをしている。
そこまで来たとき、美由紀がようやく握っていた源次郎の手を解いた。
「私、自分で身体拭くから、源ちゃんも今からお風呂にしないさいよ。頼んだ洗濯物もあるわよ。」
美由紀は、源次郎からふっと離れて、元気にそう言う。
そして、源次郎が掛けたバスタオルで、身体を押さえ始めた。
鏡を通して見るその顔は、何かしら楽しそうに見える。
源次郎は、身体を拭いてやるか、との考えを放棄した。
今は、そんな余裕がない。
「じゃあ、お言葉に甘えて、今から入ります。」
ようやっとのことで、それだけを言うと、傍に美由紀がいることなどお構いなく、上も下もすべてを脱ぎに掛かる。
また、新たに脱衣籠を引っ張り出してきて、今,脱いだものを投げ込む。
そして、洗濯物として区分していた籠の衣類を根こそぎ抱きかかえるようにして、風呂場へ駆け込んだ。
脱衣場とを仕切っているドアを閉めてから、源次郎は一息入れる。
「俺は、一体、何をしてるんだ?」
抱きかかえていた洗濯物を床に投げ出すようにして、直前の光景を思い出してみる。
背筋が寒くなるような気がする。
「きっと、美由紀さんは気付いたんだろうな」と思うと、溜息が出てくる。
「何と浅はかなことよ」と思ってはいないだろうか?
それが気になって仕方がない。
湯船の傍にしゃがみこんで、自分自身に向って「馬鹿野郎!」と怒鳴りたい気持になる。
それが分ったから、自分から離れたんだ。きっと、そうに違いない。
考えても切ないことなのに、源次郎はそれしか考えられない。
いきなりドアが開いた。
振り返ると、美由紀が身体半分を覗かせて、
「源ちゃん、これ、落し物よ」と布のようなものを投げ込んでくる。
床に落ちたそのものを見ると、それは美由紀の付けていた下着だった。
(つづく)
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