第2話 夢は屯(たむろ)する (その469)
「着きましたねぇ。」
源次郎は富の質問に答えられないから、そうした事実だけをポツンと口にする。
それに対して、富はチラッと源次郎の顔を見ただけで、黙ったままロータリーの方へと車を押し込んで行く。
まさに、押し込んで行くという表現がピッタリである。
歌謡曲の歌詞ではないが、ここは「夜の札幌駅」である。
どう考えても、北海道一番の駅だろう。
規模といい、乗降客の数といい、列車の本数といい、どれをとってもやはり北の大都市の顔となるべき駅である。
その札幌駅のロータリーに、2トンの小型だと言ってもトラックを乗りつける人間はあまりいないだろう。
しかも、魚の匂いが染み付いたものである。
前後を行く車は、乗用車であったり、タクシーであったりするのだが、やはり富のトラックには「なんだこいつ」という雰囲気がありありと浮かぶ。
だが、富はそんなことにはお構いなしだ。
先ほど、本人が言っていたとおり、このトラックは富の「宝」なのだ。
命に次いで大切なものなのだ。
その大切なトラックで乗り付けて、どこが悪い。
しかも、大切な人を迎えに来たのだ。
そんな声が、助手席の源次郎にも聞こえてきそうな迫力である。
やはり、この時間になると、見送りのための車ではなくて、迎えの車が多いようだ。
それらが、皆、ロータリーの空きスペースを求めてウロウロする。
しかも、この雨である。
駅舎の屋根の下に近い場所は、それこそ戦場のようだ。
1台が出て行けば、すぐさまその跡の争奪戦が始まる。
そうした中に、富のトラックは平然と割り込んでいく。
ちょっとだけ前を遮る車があった。
「おい、そこをどけろよ。」
富が唸った。
クラクションを立て続けに鳴らす。
フロントガラス越しに見ると、相手は乗用車である。しかも、黒塗りの外車であるようだ。
ハンドルが左側についている。
その車は、どうやら人を送ってきたようである。
富が鳴らすクラクションを意識したのか、後部座席から降りてきた初老の男が富に向かって軽く手を挙げた。
「お先にゴメンね」とでも言うようにである。
その男の顔が富のトラックのヘッドライトに浮かび上がったとき、源次郎が叫んだ。
「あっ!・・・・・あの人は・・・・・」
(つづく)
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