ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第2話 夢は屯(たむろ)する (その449)
「ところで、さっきは、本当に驚きましたよ。
絵本を読むの、とてもお上手なんですね。素人とは思えませんでした。」
源次郎はそう言って富を持ち上げる。
だが、決してゴマをすっているのではない。
本音の感想である。

「ああ・・・あれな。」
富はそれだけしか言わない。あまり触れられたくはないのかもしれない。

「どこかで、あのようなことを何度も経験されたのでしょう?
そうでなければ、あんなに上手には読めないですよね。」
それでも、源次郎はこの点だけは聞いておきたかった。
何しろ、富のことは、殆ど何も知らないと言ってもよかったからだ。

「いや、昔、浅草で芝居をかじった時期があってな。そん時からかな。
いわゆる物語って奴を、感情込めて読む癖がついた。」

「へぇ〜。浅草で、お芝居をねぇ。」
源次郎は決して馬鹿にするつもりはなかったが、出会ってからの富を見ている限りにおいて、過去にそうした世界と関わりを持っているとは到底想像ができなかったのだ。

「らしくないって、言いたいんだろ?」
富は、多少自嘲気味に言う。

「いやいや、それにしても、本当にビックリしました。
富さんらしくないって言うと怒られるかもしれませんが、声の質までが変わっちゃって、目を瞑って聞いていると、まるでラジオのアナウンサーが読んでいるように思いましたもの。
凄いなと思いましたよ。」

「でもな、特にあの白雪姫は健太が好きみたいで、最近では一番よく読んでやった本なんだ。
だからってこともあるんじゃねぇのかな?
案外と、すらすら読めたしな。」
ここまで来て、ようやく富の顔に少しだけ笑みがこぼれた。


「どうして健太君が好きだと分ります?」
源次郎は、その点を訊きたかった。
あの病室でも、同じことを言っていたからだ。
でも、健太は自分の好き嫌いも言える状態ではない筈。
だとしたら、どうして富がそのように思うのかに、非常に関心があったのだ。

「だからさ、あん時も言ったろ?
検査の体温が少し上がったり、点滴の吸収が早まったりするんだ。
健太の身体が反応してるんだ。きっと、そうなんだ。」
富は、まるで医者のような言い方をする。

「そんなことが、よく分りますね。」
源次郎は、単純にそう思うから訊く。
医者でも看護婦でもないのに・・という言葉は飲み込んでいるが。

「そりゃなあ、南小樽の病院で付き合ったときからそうだったんだから。」
富は、経験からして、そうだと思い込んでいるようである。


(つづく)



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。