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第2話 夢は屯(たむろ)する (その43)
源次郎は、すぐさまとってかえした。

「このままで結構です。で、どうすればいいのですか?」
美由紀は少し怪訝な顔をして見せたが、それ以上は追求しない。
「この部分にお湯をたっぷりとかけてから、さっと剥がして。」
そう言って、自分の股間を指差す。

源次郎は、言われるままにした。
跪いて、風呂桶で湯を掬って、美由紀の身体にかける。
「もう、一ニ回かけて。」
「はい。」
源次郎は繰り返す。
かけられた後に、美由紀はそのバタフライを上から押してみる。
「もう一回。」
「はい。」
今度は、桶一杯にかける。
「うん。これでいいわ。この部分をちょっとだけ剥がして、それから、一気に全部を剥がして。」
美由紀は、そう言って、へそ下の部分を指差す。

源次郎は、言われた箇所に爪を立てて剥がしに掛かる。
この時になって、どうして劇場へ入る前にあれだけ乳液のようなものを身体に丁寧に塗っていたのかを知る。
そうなのか、このためなんだ!

ところが、そのバタフライは、しっかりと身体に張り付いているようで、おっかなびっくりで爪を立てるぐらいではびくともしない。まるで、ガムテープを段ボール箱に貼り付けたような感じである。
「痛くはないのだろうか」と心配になって、下から美由紀の顔を見上げる。
その意味を理解したのか、
「大丈夫よ、痛くはないわ。それよりさっさとやってね。」
と美由紀が言う。

源次郎は額に汗が浮き出るのを感じる。焦っている。
「痛かったら、ごめんなさい」と言いながら、右手の人指し指を美由紀の身体にめり込ますようにして最初の部分を剥がしに掛かる。
何とか、少しだけが浮く。
そこに指を入れて、下向きに一気に剥がそうと考えるが、「とても痛そうだ」との感じは拭えない。

「本当に一気に行っちゃって構いませんか?痛いと思います。」
まるで自分のことのように源次郎は言う。
「大丈夫よ。少しぐらいは我慢するから。一気に行って。」
ベリベリという音を伴って、源次郎の指がバタフライを剥がして行く。
一瞬、美由紀が腰を引いたが、声すら出そうとしない。

「終わりました。本当に大丈夫ですか?」
源次郎は、その後の美由紀の顔を見ることは出来なかった。
下を向いたまま、ようやっとのことで、それだけを訊く。
「ふうっ!・・・・・」
美由紀は、それだけを発したか思うと、突然に笑い出した。
「この痛ささえなかったら、この稼業も結構楽しいものなんだけれどねぇ。」

源次郎が恐る恐る、そのバタフライがあった部分を見ると、やはりそこだけが赤くただれたような色をしていた。
指示に従っただけだとは思いつつも、そこまでしなければならない美由紀の立場を、何となく悲しいもののように思えるのだった。
源次郎の手に残っているバタフライに、どうしようもない嫌悪感が沸き立つ気がする。

僅かしかなかった美由紀の陰毛を、そのバタフライはこれでもかというほどに、また毟り取っていた。


(つづく)



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