第2話 夢は屯(たむろ)する (その429)
「男の人って、他人の子の下の世話までできるの? うんちも触れるの?」
いつしか、美由紀が源次郎に問い質した言葉である。
改めてそれを思い出す。
「こういうことなんだ。」
話の流れははっきりとは覚えていないのだが、美由紀が言いたかったのはこのようなことなのではないか、と合点がいく。
もし今の場面で、あの女性があの部屋にいなかったとしたら、自分はどうしていたのだろう?
あの瞬間、千尋が何を言っているのか分らなかった。
確かに慌てていたということもあるのだろが、だからと言って、少し時間が経てばあの子の意思が理解できたかと言えば、決してそうではないだろう。
だとすれば、ナースコールボタンを押して助けを求めるか、あるいは、里山医師がいるのが分っていたから、そこへ走っていたかもしれない。
少なくとも、あの女性がしたように、千尋の要望に適切に対応する事なんて、絶対に出来なかっただろうと思う。
千尋にすれば、いつもは祖母である望月婦人が傍にいるから、あのようなことでも平気で甘えられたのだろう。
先ほど源次郎に対して示した態度を見せるだけで、全てが安心して頼れた筈である。
それが、その婦人が今夜は傍にいない。
いや、いないというより、おられない事情がある。
持病の心臓が悲鳴を上げたのだ。
今は、心臓内科の病室に横たわっている。
そして、その一因に、自分が関わっているように思えてならないのだ。
「お兄さん、終わりましたよ。行ってあげてください。」
先ほどの女性が、源次郎にそっと声を掛けてから、なにやら新聞紙に包んだ何かを持って廊下を進んでいく。
「有難うございました。」
源次郎はその後姿に頭を下げてから、急いで千尋のベッドに戻っていった。
千尋は、なぜかしら、源次郎に背を向けるように、あちら側へ顔を向けたままでいる。
「さっきは、ゴメンね。何にも分ってあげられなくて。」
源次郎は本音を言う。
だが、千尋は相変わらず背中を向けたままで、首だけを「ううん」というように数回振って見せただけである。
気まずい雰囲気が漂っている。
それは分るのだが、だったらどうするべきかが源次郎には見つけられていない。
(つづく)
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