第2話 夢は屯(たむろ)する (その419)
だが、源次郎は電話口から聞こえる美由紀の言葉に従えない。
これだけは、いくら美由紀がそうだと力説しても、源次郎は男としてその考えには承服できないものを感じるのだ。
自分のことだけを考えているズル賢い奴。
それが、源次郎が感じる支配人への思いである。
誰がどう言おうと、これだけは変わらないだろうと思う。
だが、その思いが、美由紀を挟んでの男としての対抗心だとは自分でも気がついてはいなかった。
「だからさ、源ちゃん、悪いんだけれど、札幌駅まで迎えに行ってあげて欲しいの。頼めるわよね。」
美由紀は、頭の中でこれからの行動スケジュールを描けているようだ。
「はい、もちろん行きますよ。他に、準備しておくことはありますか?」
「そうねぇ、後は特には無いけれど、富さんのことも含めて、こまめに電話連絡が欲しいんだけれど。」
「はい、できるだけ細かく連絡を入れるようにします。」
「私は舞台が終わったら、サキさんを小樽駅まで送ってから、実家に戻るわ。
だから、電話は実家にして欲しいの。分った?」
「・・・・・そうですね、その方がいいですよね。ホテルよりも。」
源次郎はそう言いながらも、気持としては少し複雑なものがあった。
「じゃあ、そろそろ舞台の準備するから。」
「はい、頑張ってくださいね。」
そこで、電話は切れた。
源次郎は、美由紀と話せた事で、少しはほっとした気持がある。
それに、里山医師から宿題のように言われていた今夜からの付き添いの話もサキがくることで明確に決まった。
本当は、今夜は一度札幌に戻って美由紀の傍で寝たかったのだが、それは叶わなかったものの、明日朝には、サキとともに戻って来いと言われたのだから、美由紀が自分を必要としている事だけは十分に感じ取れた。
それで、少しは満足する気持もある。
「さあ、これから大変だぞ。」
源次郎はそう言いながら、戻ってきた10円玉を取り出して、あのきんちゃく袋にそれを戻した。
あの郵便局で両替してきたときには、これで当分はいけそうだと思ったものだったが、今の時点で、既に半分以上を使っている。
先ほどの女性にも幾分かは融通した。
それもあるのだろうけれど、それにしても消費するスピードが異常に早いような気がしてならない。
それだけ小樽と札幌は離れているのか。
いやいや、そういう物理的な側面もあるのだろうが、やはり顔を見ないで、相手の体温を感じないで、それぞれの意思をきちんと伝えるには、そうした時間とコストが必要なのだという心理的な側面での距離を強く感じる。
「ああ・・・、会いたいな。」
源次郎は、美由紀のことを懐かしく感じる。
だが、現実はまだ9時間しか離れていないのに、である。
(つづく)
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