第2話 夢は屯(たむろ)する (その41)
「お風呂は、あと10分くらいで溜まると思います。湯加減は熱いのがお好きですか?それとも・・・」
源次郎が美由紀に訊く。
「私は、少しぬるめなのかな?こういうのって、自分を基準にするから、どう言っていいのか分らないよね。」
美由紀は少し考える風にしてそう答える。
「それじゃあ、入られる前に調整しますから、確認してくださいよ。そのときには、お声を掛けます。」
源次郎は、湯の量を考えながら、そう言う。
「ところで、明日なんですが、10時半には楽屋入りして欲しいとのことです。段取りが分らないんですが、何時頃に起きられますか?」
先ほどのメモ用紙を手にとって、源次郎が確認する。
「そんなに早く入る必要はないんだけれどなぁ、まあ、初日だし、源ちゃんの顔も立てておかないとね。・・・とすると、・・・・・8時でいいや。8時に起こして。」
「それで、準備間に合いますか?」
「うん、大丈夫だよ。・・・・・心配?」
「いえ、とんでもない、ただ、何度も言ってますが、何もかもが初めてなもので、想像すら付かないんです。ただ、それだけのことなんです。気が小さいでしょう?」
源次郎は自嘲気味に小さく呟く。
「ううん、気が小さいだなんて思わないわよ。この業界知らないのに、よりによって、佐崎美由紀の付け人をやる気になった源ちゃんだもの。大博打を打てる人かもしれないよ。」
美由紀は、楽しそうに言う。
「だって、美由紀さんが、あれだけのスターだとは知らなかったんですから。ホント、申し訳ないんですけれど。知ってりゃ、美由紀さんに声を掛けてもらっても、受けてないと思いますよ。」
「あっ!だったら、知らないでいてくれて、美由紀はラッキーだったのかな?」
「世間知らずで、申し訳ないです。」
「あははは・・・・・・・」
美由紀が大きな声で笑った。
「あっ!お風呂、見てきますね。」
源次郎は、時間が過ぎていることに気が付いて、慌ててバスルームへと走る。
湯船からは既に湯があふれ出している。
蛇口を絞って、湯を止める。
手を入れてみると、少し熱い目だと感じるが、それはあくまでも源次郎の感覚によるものである。
美由紀は「ぬるめが好き」だと言ったから、これから水を足すことになる。
適当に埋めて、美由紀自身に確認してもらうしかないだろうと考えている。
1分ほど水だけを加えて、そこで止める。
美由紀を呼びに行こうと振り返ると、脱衣スペースのところに美由紀が既に立っていた。
「湯加減、これで大丈夫ですか?」
源次郎は、驚いた顔のまま訊く。
美由紀は、素足でやってきて、湯船に片手を入れて、少しかき回すようにする。
「う〜ん、もう少しだけ、お水入れて。それでいいわよ。」
それだけを言って、脱衣スペースへと戻っていく。
源次郎は、30秒だけ・・と思って水を加えて、それで止める。
そして、美由紀がしていたように、手で少しかき回してみる。
それでも、心もちぬるくはなったかと思う。
「はい、準備できました。どうぞ、お入りになってください。」
そう言って、振り返った源次郎のまん前に、全裸の美由紀が立っていた。
(つづく)
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