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第2話 夢は屯(たむろ)する (その409)
予想通り、その女性は受話器を取り上げて、ダイヤルを廻し始める。

「あちゃ!・・・・・・。」
源次郎は、あの公衆電話から離れたことを後悔した。
もう数分のところまできていたのに、少し休もうとこの長椅子に腰を下ろした。
それがいけなかった。


結構長いダイヤルである。
10桁ぐらい回したような気がする。
「市外通話だな。」
源次郎はそう思った。

いままで、大阪や東京にいたとき、誰かが電話をしているのを待つこともあったが、今のように市外通話か市内通話かを気にする事は無かったように思う。
それはどうしてなのかは分らないのだが、この病院にきてからは、その通話先が気になって仕方がない。

「ああ、私です。
今夜は帰るつもりだったけれど、やっぱりやめておくわ。
あの子の顔を見ていると、とてもこのまま置いては帰れないの。
お願いだから、もう一日くださいな。」
30歳ぐらいのその女性は、誰に電話をしているのか、柔らかな言葉でそう言った。
どうやら、今夜帰る予定だったのを変更するとの連絡のようだ。

相手がどのように答えたのかは分らない。
源次郎の耳に聞こえる筈もない。
だが、どうやら彼女の主張が認められたようで、
「有難う。では、そのようにしますので、よろしくお願いします。」
そう言って、電話口で盛んに頭を下げている。

彼女はそれで電話を切ろうとしたようだった。
後ろから見ていても、それが感じられた。
だから、源次郎もほっとしたのだった。

「もう、終わるな。そしたら、すぐに掛けよう。」
そう思って、きんちゃく袋を手にして腰を浮かしかける。


「えっと・・・・・それはですね。」
彼女の戸惑いが感じられる。
切ろうとしたのに、相手が何かを問いかけたようだった。

「おいおい、まだ続くのかよ。」
不謹慎にも、源次郎はその相手を恨んだ。
このクソ忙しいときに、ごちゃごちゃしたことを言うなよ。
そんな思いである。

「ええ、経過は良好なんですが・・・・。」
彼女も一刻も早く病室へ戻りたいという雰囲気である。
恐らくは、部屋には彼女の子供が待っているのだろう。

「ですが・・・、もう10円玉が切れますので・・・。」
彼女はそう言って、この場を凌ごうとしている。


(つづく)




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