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第2話 夢は屯(たむろ)する (その40)
美由紀は、そのままホテルに入っていく。
フロントに行く。
ルームキーを受け取ったようだ。

源次郎は、まだホテルの玄関を入れないでいた。
ひとつは、呼吸が整わないのだ。ゼイゼイ言っている。
多寡が小娘と思ったのがいけなかった。
東京での生活が、如何に不健康であったかを思い知る結果となった。
中腰のままで、両手を膝について、肩での呼吸が続いている。

もうひとつは、「ごめん、今のは忘れて」と言った美由紀の言葉である。
確か、その前に言ったことは「小樽第二中学校の・・・・」。
ん!・・・・・・・・。

だが、それ以上の思考を重ねるのには、頭の中の酸素が欠乏している。
ともかくも、美由紀の後を追うようにして、玄関を入る。



部屋に戻った後は、美由紀は、異常なほど静かで寡黙になってしまう。
源次郎が何かを尋ねても、ただ首を縦に振るか横に振るかで答えるだけである。

源次郎は、明日からのことと、今日からここに寝泊りするに当たってのいろいろな確認事項を、美由紀と話しておきたかったのだが、この調子では、しばらくは駄目なようである。

美由紀のハイヒールを片付けて、化粧ケースをベッドルームに運び終えてから、源次郎はフロントへ電話をして、ルームサービスの内容やサービス時間を確認する。
そして、モーニングコールが出来るのかどうかも、あわせて確認する。
モーニングコールは出来るとのこと。
ルームサービスは、軽食と飲み物のメニューを後ほど部屋まで持ってくるとのこと。
時間は、朝の6時から夜の11時までだそうである。
源次郎は、そうしたことを電話機の傍においてあったメモ用紙に書き込んだ。

美由紀が日ごろからどのような生活サイクルを持っているのかも分らない源次郎である。
ただ、今日は、美由紀はこれでもうしなければならないことは済んだのではないのだろうか。
そう、思う。
時計を見ると、もう10時に近い。
取り敢えずは、風呂に湯を張ることにする。

「お風呂の準備してきますね。」
そう言って、源次郎はバスルームへと入っていく。
美由紀は何も答えない。
蛇口を捻って、湯を出す。しばらく出しっぱなしにして、温度を調整する。
美由紀の好みも分らないが、少し熱い目にしておく。
ぬるいよりはマシだろうと考える。

一応の段取りをしてから部屋へ戻ると、美由紀はソファーのところで煙草を吸っていた。
例の、あの煙草である。
源次郎は、劇場で出会ったあの清掃人との話をしていない。
多少、重苦しい気持はあるが、今しばらくは黙っておくほうがいいような気がしている。

美由紀が煙草を灰皿に投げ込む。また、数口しか吸っていない状態のものである。
そして、源次郎が着せていたジャンパーを脱いで、それをきちんと畳む。
「そこまでしていただかなくても・・・・」と源次郎。
美由紀は、黙って首を横に振っただけである。
源次郎には、その意味も分らない。


「お風呂、お湯が溜まったら、お風呂入ろうね。」
美由紀は、暗い港のほうを眺めたまま、そう言った。

随分な時間、美由紀の声を聞かなかったような気がする源次郎だった。


(つづく)



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