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第2話 夢は屯(たむろ)する (その389)
「・・・・・・・・・・・・・」
強烈なインパクトはあるのだが、まだ源次郎の中ではふと指先に触ったジクソーパズルの1ピースにしか感じられない。

どこかにピッタリと嵌る場所がある筈なのだが、それが一体どこであるのかがはっきりとはしてこない。
この辺りなのかな?という感覚はあっても、ここだ!と断定できる材料は見つからない。


美由紀はあの寿司屋の夫婦を親だと思って育ってきた。
だが、中学生の時、戸籍謄本が必要となることがあって、その際に、実の両親ではなかったと言う事実を知ることになる。

それは大きなショックだったろうと思う。

子供は、例えどんなに叱られようと「この親は自分の本当の親ではないのではないか」という疑いを持つ事は殆ど無い。
親は子供を叱り付けるものだ、うるさく言うものだ、という認識があるから、その一時をすぎれば甘えられるものなのだ。
子供は、誰しもがそうして大きくなっていく。

その事実を知ったときの美由紀は、実の母、つまり自分を産んでその後捨てた母親を恨みに思ったそうだ。
育ててくれた両親への恨みは口にしていない。

だが、余りにもタイミングが悪かった。
思春期の傷つきやすいときであったから、「捨てられた」「親から見離された」という被害意識が美由紀の気持を「逃避」へと傾斜させる。
そこに、目指していた高校受験の失敗が重なって、経済的な問題もあって、結局は中卒で富山の工場に働きに出ることになる。

それを決定付けたのが、先ほど蘇った「本当の子供では無いから」という一言である。

中学卒業と言えば15歳。
まだまだ子供だ。大人の世界が分るはずも無いし、大人の本当の気持を理解しろと言うのは酷なことではある。
「私学に行かせてやりたいのは山々だけど、先立つものが・・・」
それを直接聞いたのでもないのに、美由紀は育ての親夫婦の立場を子供なりに慮ったのだ。

「私さえここを出て働けば、皆がそれぞれ楽になる。」
そう思ったようだ。

「本当の子供ではないのだから・・・・・」
「何とかして私学の高校へ行かせて欲しい」
とは言えなかった。そこまで甘えられなかった。

美由紀は、小樽を離れることに、そのような理由を自らでこじつけたのだ。
そう思わなければ、自分の背中を押せなかったのだろう。


それから5年か6年が経っている。
今回、初めて小樽に戻ってきたのだと言う。
そして、自分が育ったあの家に毎日通っている。
源次郎も一緒に行ったが、今でも、美由紀が出て行ったときのままの部屋があって、夫婦で「お帰り」と口を揃えてくれる。

美由紀が「本当の子供ではないのだから」という言葉を、今でもあの当時と同じ気持で口に出来るとは、とても思えない。


(つづく)




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