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第2話 夢は屯(たむろ)する (その379)
「まあ、垣内さんが大丈夫だろうと言われているのですから、きっとその通りなのだと思いますよ。
僕も専門家じゃないので断定的なことは言えませんが、軽い発作だということのようです。」
年齢的に言っても、当然大家の方が先輩なのだろう。
里山医師も、ここでの小児外科医としての顔ではなく、後輩が先輩への信頼感を披露しているような言い方になる。

「ここのところ、千尋ちゃんの状態が不安定でね。夜に付き添われる事が多かったから、その疲れもあったんだと思います。
でも、よくやられてますよ。」
里山医師は、この部分では小児外科医の顔になる。

「そんなときに、僕がご無理をお願いしたものですから。」
源次郎は、まだそうした気持を強く引きずっていた。
「まあ、それはたまたまの偶然ですよ。
ご自分を責められない方がいいですよ。
考えようによっては、あなたが傍におられたときで助かったという事もありますから。事実としてね。」
里山医師は、そう言って慰めてくれる。

「どこにおられます?
電話があれば、僕も様子を見に行きたいので、ご一緒しますから。」
里山医師がうれしいことを言ってくれる。

「あっ、はい。では、この横の待合室に富さんと一緒にいますから。
電話がありましたら、是非とも教えてください。
よろしくお願いいたします。」
それだけを言って、源次郎は一礼をしてその部屋を出た。

少しは安堵したが、それでもまだ婦人の顔を見るまでは心からの安心はできない。


富がいる待合室に戻る。
他には誰もいないだろうとは思うのだが、一応はノックをする。

「は、はい、・・・」
中から慌てた富の声がする。
何かを口に入れたままの状態で返事をしている事がよく分かる。

ドアを開けると、富が口一杯にパンを頬張っているのが見えた。
「あははは・・・、慌てなくても大丈夫ですよ。」
源次郎はそう言って見たものの、富は、どうやらパンを喉に詰まらせたらしく、真っ赤な苦しそうな顔をする。
「だ、大丈夫ですか?・・・・・」
源次郎は慌てて富の後ろに回りこんで、背中をどんどんと叩いてやる。
最初はとんとんと軽く叩いていたが、一向に解消する様子が無かったから、3度目辺りからはかなり強く叩いた。

「ふぁ〜・・・・・・、助かったぜ。」
ようやく富の呼吸が再開されたようだった。
「大丈夫ですか?」
源次郎は、同じ言葉を何度も投げているような気がする。
それでも、それしか言いようが無い。

振り返った富の目には、大粒の涙が幾つも浮いて出ていた。


(つづく)




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