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第2話 夢は屯(たむろ)する (その359)
「でもなぁ〜・・・・・・」
こうした息苦しくて狭苦しい世界で、日々、その病気や怪我と戦っている子供たちがいる現実を、一般の人は殆ど知らないし感じてもいないだろう。
つい数日前までの源次郎がそうであったように。

健康な人間にとっては、病院はあまり馴染みの無い場所である。
できれば、行きたくは無いし、行かなくて済むようにしたい、と考える場所だろう。
とりわけ、源次郎のように20歳代の青年にとっては、病院と聞くだけで痛い注射を連想するし、入院と聞けば、何かしら途轍もない不幸に出会ったように感じるものだ。
日常では在り得ないことが起こったときに駆け込む場所だというイメージが付いて回る。

そうした非現実的な場所に、今、源次郎はいる。
勿論、自分に異変があったからでないのだが、なぜ、今、自分が、こうした子供ばかりが入院している病棟にいるのか。
そして、これからこうした世界とどのように関わる事になるのか。
それを考えると、何かしらとても不思議な感じがするのだ。


東京の大学を退学処分になった。
大阪の両親は「帰って来い」と言うが、とてもじゃないが、のこのこと戻る気持になれない。
だから、しばらくは東京にしがみついた。
だが、今度は実家からの仕送りが止められた。兵糧攻めである。
これには参った。食うものもまともに食えなくなる。

そこで、東京で知り合った友人を頼って小樽に来た。
彼の両親が大きな旅館をしていると聞かされていたのだが、行って見ると小さな民宿だった。
おまけに、頼ろうとした友人本人も戻ってはいなかった。

途方にくれた。
甘いといわれれば、確かにそうなるだろう。
世間なんて、そんなに思うとおりに行く筈がない。
それでも、大阪に帰る気にはどうしてもなれなかった。

母親に泣きを入れた。
金を送ってくれと。

母は、父に内緒だと言って、僅かな金を送ってくれた。
それでも、その金さえあれば、大阪への鉄道賃は賄えた。
母も「このお金で戻ってきて欲しい」と書いて寄こした。

母の思いはありがたかった。優しい心遣いには涙が出た。
だが、それでも、やはり大阪には戻れなかった。
このままでは・・・との気持が強かった。

兎も角も食べる物と寝る場所を確保しなければ、と駅周辺でアルバイト口を探した。
その時、たまたま立ち寄った食堂で、あの富に出会ったのだ。

「男でなけりゃ出来ない仕事を紹介してやる。」
彼は、そう言ったのだった。

そこから、全てが始まったのだ。
今、こうして、大学病院の小児外科の入院病棟にいることも、全てがそこからきているような気がするのだ。


(つづく)




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