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第2話 夢は屯(たむろ)する (その331)
中学生の頃。
学校が終わって帰る途中で、よく黒門市場のうどん屋へ立ち寄った。
幾ら食べても、すぐにお腹が減る年代なのだ。
貰っている小遣いをやりくりして、かけうどんとおにぎり1個のセットをよく食べた。
「飽きないもんかねぇ」と言われつつも、あまり小遣いに余裕が無いのだから、ともかくも安くて腹が膨れるものという条件から、そのセットが定番のようになっていた。
可愛そうに思ったのか、たまにだが、おばちゃんが「きつねの揚げ」をそっとサービスしてくれたりもした。

その光景を彷彿とさせる匂いがしたのだ。
「これを逃す手は無い」
源次郎は、その店の前で立ち止まる。
そして、見本が並べられているショーウインドを覗き込む。
表示されている値段も納得できるものだ。
それさえ確認できたら、もう迷うことは何も無い。
引き戸のようになっている店の扉を開けて入った。

「いらっしゃい!」
大きな声で店の中から声が掛かる。
だが、見渡すと、どの席も人が座っているようで、空いているところが見当たらない。
これは、きっと旨いのだろう。
源次郎は、そう期待をした。
店の中に充満するだしの匂いが、ますますその期待を大きくする。

頭に白い頭巾のようなものを被ったお姐さんが近寄ってくる。
「何にしましょう?」
注文伝票を手にして訊いてくる。
「どこにも空いている席は無いみたいだね。」
源次郎は、まだ座る席も決まっていないのに注文だけを問われた事に驚きを隠せない。
「注文してもらったら、席は空けますから。」
お姐さんは、それがごく当たり前なのだとでも言うような顔をする。

「ええっと・・・・?」
さすがに源次郎もメニューまでは決めていなかった。
「じゃあ、これ見ていてくださいな。決まったら、手をあげてね。」
お姐さんは、脇に挟んでいたメニューを源次郎に手渡すと、すぐさま厨房との境にあるカウンターのようなところに戻っていく。

呆気に取られたが、仕方が無いと諦めて、渡されたメニューを眺める。
そんなに品数は多くは無い。
「う〜んと・・・・・」
と考えている。

すると、また新たな客が入ってきた。
若いサラリーマン風の2人組である。
慣れた様子で、手にしていた傘をぎっしりと詰まった傘立てに押し込む。
そして、奥へ向って「いつもの奴」と声を揃えて言った。
すると、先ほどのお姐さんが、店の中をぐるりと見渡してから、おもむろにある席に近づいて行き、そこにいたひとりの客に何事かを言う。
それから、手をあげるようにして、
「お2人さん、3番にどうぞ」と大きな声で言う。
今入ってきたばかりの若いサラリーマンがその席に向う。

源次郎はまたまた呆気に取られた。
だが、そうした一連の流れを見ていて、
「なるほど、ここは“言ったもの勝ち”なんだ。」
と思う。


(つづく)




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