ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第2話 夢は屯(たむろ)する (その33)
「あはっ!・・私は独り身だしね。誰も待っちゃいないから。・・・でも、ここにいても邪魔になるだけだから、それじゃ帰るとしますか。兄ちゃんも仕事頑張ってな。」
おばさんは、そう言って、布製の買い物袋を提げて事務所を出て行った。


源次郎は、なぜかほっとした。
隠していた煙草の大箱を、一旦は自分の鞄にふたつとも入れた。
入れたところで、ふと、思い直す。
あのベースだと、美由紀の煙草も直ぐになくなるだろう。恐らくは、そのためにあの雑貨屋で買わせたに違いない。
そのときになって、この大箱から取り出すのも格好が付かない。今のうちに、ひとつだけはバラしておこう。

源次郎は、ひとつの大箱を再度取り出して、それを破った。
中から、煙草が20個出てくる。
それを3つだけ取り出して、残りは、破れた大箱に戻して、鞄に入れる。
「源ちゃんも吸ってもいいよ」と言われていたから、取り出した3個のうちの1個を自分用にするつもりで、上着の右ポケットに入れる。そして、残りの2個を美由紀用として左のポケットに入れる。
そう言えば、源次郎のショートポープも殆どない。
味見も兼ねて、源次郎はその煙草を吸ってみる気になった。

右のポケットから煙草の箱を出して、いつもと同じように片側だけを破る。
ポンポンと箱を叩いて1本取り出して、マッチで火をつける。
一口吸って、源次郎は顔をしかめた。明らかに不味いのである。
「よくも、こんな不味い煙草吸ってられるなぁ。」
源次郎は、本音をポツリと口にする。
洋もく独特の癖があるのだ。どこの国のものなのかも分らないが、日本人には向かないだろうと思う。
味からすると、アメリカ製ではないような気がする。よくは分からないのだが。
念のためにと、3口ぐらいだけを吸って、残りは灰皿で火を消す。
吸い終っても、口の中の違和感は、早々簡単には消えないようだ。
源次郎は、吸ったことを後悔する。

でも、美由紀は、これを吸っているのだ。
何故なんだろう?
昔の男が外国人で、その男を忘れられないから、その男が吸っていた煙草を咥えているのか。
それとも、この煙草の味が好みなのか。
いずれにしても、俺は、もう結構だ、と思う。
後で、どこかの煙草屋でショートホープを買おうと思う。
残った煙草は、また右のポケットに仕舞い込む。もう、吸うことはないと思うのだが。


それからが長かった。
2時間ぐらい掛かると言われていたが、待つ身は数倍の時間に感じる。
「どこにも行くな」と言われていたので、ふらりと散歩に行くわけにも行かない。
仕方なく、源次郎は、これからの自分を考えてみる。

取り敢えずは、美由紀の付添い人のような仕事は決まった。
その仕事のイメージは、何となく想像できる。
男の家政婦みたいなものだと思う。
だが、給料は幾らくれるのだろう?
それも、ここの支配人からくれるのか、それとも美由紀がくれるのか?
理屈的には、支配人が事前に手配すると約束していたようだから、雇い主は支配人なのだろう。そして、その使用者が美由紀だと言うことになるのだろう。

でもなあ、あの部屋に荷物もってこいというのは、実際のところ驚きだよなぁ。
そういう状況になるとわかっていて、あの支配人は俺にこの仕事をさせようとしたのか?
そう考えると、無性に腹が立ってくる。
本来は、最初は、違う仕事を考えていた筈だろうに。
あの富さんとか言う大男の話では、男にしか出来ない仕事だった筈だ。
何かが、とこかで、狂ってしまった。
源次郎は、そう思う。


(つづく)



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。