第2話 夢は屯(たむろ)する (その327)
1階に降りると、相変わらず外来診察の順番を待つ人達が大勢いた。
源次郎は、先ほど会話を交わした受付の女性に一言礼が言いたかったのだが、その受付には違う女性が座っていた。
交代したんだ。
源次郎は、そう思った。
入ってくる人の様子で、まだ外は雨が降っているのだと気がつく。
皆が、傘を畳みながら入ってくる。
「あっ!・・・・・傘。」
4階のあの控え室のような部屋の傘立てに置き忘れていたのを思い出す。
それで、また、エレベーターで4階に戻ることになる。
4階の待合室へ入って、傘を取ろうと手を伸ばすと、傘立てには何本かの傘が入っていた。
その中から、自分の傘を取り出す。
他に、まだ3本の傘が残っている。
どうやら、男物が1本と女物が2本のようだ。
「ん?・・・・・・これは、あの夫婦のものなのかしら?」
源次郎は、漠然と、この部屋で一緒になったあの夫婦のことを思い浮かべた。
そう言えば、あの夫婦と女の子はどうしたのだろう?
もう帰ったのかな? それとも、まだ別のところにいるのだろうか?
同じように検査をした後だったようだが、先に先生に呼ばれて話を聞きに行ったはずである。
それからは、姿を見ていない。
でも、この傘があの夫婦のものだとしたら、まだこの病院のどこかにいるのだろう。
あるいは、もしかしたら、あの女の子は既に入院している子だったのかもしれない。
そうした話を聞いたような、聞かなかったような、曖昧な記憶である。
兎も角も郵便局へ急がないと。
源次郎はそう思いなおして、また来た道筋を戻る。
表に出ると、予想以上に雨は降っていた。
ここへ来たときにはそんなに大粒の雨ではなかったが、今は、病院の敷地一杯に広げられたアスファルトの上に叩きつけるように降っている。
跳ね上がる量も半端じゃない。
「玄関を出て右手ですよ」
そう教えられた郵便局を目指して、源次郎は駆け出すようにして通りに出る。
右に曲がってすぐに、その先に目をやる。
何しろ始めてくる場所なのだから、方角さえはっきりとはしないのだ。
まして、この道のどれくらい先に郵便局があるのかもまったく実感がないのだから、取り敢えずは雨に煙る道の先を遠めに確認をする。
すると、建物そのものは見えないのだが、道の端に赤い郵便ポストが立っているのが見えた。
「ああ、きっと、あそこなのだろう。」
源次郎は、その郵便ポストを目指して小走りに歩道を行く。
ズボンの裾が、雨粒を吸って、次第に重たくなっていく。
(つづく)
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