第2話 夢は屯(たむろ)する (その32)
「おばさん、それって、外国の煙草じゃないんですか?」
源次郎は、それとはなしに、訊いてみる。
「ああ、これかい、どうやらそのようだね。」
おばさんは、ボケた答え方をする。
「珍しいものを吸っているんですね。それと同じ煙草を吸っている人を知っていますよ。」
源次郎が、そういうと、おばさんは慌てて煙草の火を消す。そして、真顔で、
「それって、この業界の人?」と訊いてくる。
源次郎は、おばさんの様子を見て、美由紀の名前を出すことをためらった。
「どうして、ですか?」
「いゃあ、・・・・この煙草は珍しいからね。それで、聞いてみただけよ。」
「この業界の人じゃあないですけれど・・・・。」
源次郎がとぼけると、おばさんは、さらに詰め寄ってくる。
「本当に知っているの?この煙草を吸う人。それって、男?それとも女?」
源次郎はとまどった。
どう答えるかというよりも、どうしてそこまで気にするのか?それが分らないからだ。
「女性ですけれど。・・・・東京にいる人ですよ。いや、いた人って言う方が正解かな。」
源次郎は、この話から遠ざかりたかった。
美由紀と関係があるのかどうかは別にして、このおばさんは同じ煙草を吸う人物に対して何らかの意識があるのだ。それがどのようなものなのか、おばさんの顔を見ている限りにおいては、にこやかに話できるようなことではないことだけは分る。
それだけに、安易に美由紀の名前を出すことに抵抗感がある。
「ねぇ、その人のこと、もう少し詳しく教えてくれない?」
ヤバイ・・・・、源次郎はそう思った。
「東京にいるときに、同じ下宿にいた子でね、もう、卒業して、田舎に帰ったんじゃないかな。」
とっさに、適当な作り話を仕立てた。
「その子、いくつの子?」
おばさんの目が、一段と真剣味を増してくる。
「確か、当時、24って言ってたから、今は、26歳ぐらいだと。」
源次郎は、本当に適当なことを答えた。
おばさんの顔が、どこか緩んだ。
「26歳か。そうか。そんな年だったら・・・・・」
その後の言葉を飲み込んでしまう。
源次郎は、美由紀に買わされたその煙草のカートンが化粧ケースの後ろ側にあるのを確認した。
これは、見せるわけには行かない。
床に置いた鞄をもう一度机の上に上げて、それを煙草の大箱の上から被せるように置く。
「おばさん、帰らなくていいんですか?」
源次郎は、おばさんを追い出しに掛かる。
(つづく)
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