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第2話 夢は屯(たむろ)する (その31)
「なんだ、兄ちゃん、まだいたのかい?」
おばさんは、仕事が終わったようである。私服に着替えている。

「先ほどは、どうもすみませんでした。服、大丈夫でしたか?」
源次郎は、トイレに駆け込んだときのことを思い出して言う。
自分が突然飛び込んだことから、おばさんはバケツの水をひっくり返したのだった。
「ああ、大丈夫だよ。そんなことを気にしてたら、こんな仕事はできゃしないよ。それより、兄ちゃんは、ここでの仕事は無事に決まったのかい?」
「・・・・・う〜ん、決まったような決まってないような・・・・。宙ぶらりんかな。」
「あははは・・・・。宙ぶらりんってか、面白い子だねぇ。」
「おばさんは、お仕事は終わったんですか?」
「ああ、今日は特別なんだよ。明日から、公演があるだろ。だからさ。いつもは、こんな時間には来やしないんだ。」
「そうなんですか、いつも、ここで公演しているんではないんですか?」
「ああ、こうしたストリップの公演というのは、いわばドサ廻りなんだよ。1週間ぐらい公演すると、また別のところに行ってまたそこでやる。年がら年中、そうして移動しながら稼いでるんだ。常設でやっていけるのは東京や大阪みたいな大都市だけだろうね。北海道の町じゃ、お客も多寡が知れてるしね。」
「そうなんですか、ドサ廻りねぇ。」
源次郎は、懐かしい言葉を聞いたような気がする。

「でもさ、明日からの公演は、多分超満員になるだろうよ。なんか、東京から有名な踊り子が来るからって、町じゃ男どもが噂してるからね。・・・・・ああ、これこれ。この子だよ。」
おばさんは、壁に貼られているポスターを指差して言う。
「佐崎美由紀・・・・か。ふ〜ん、さすがに美人だね。私の若いときみたい。」
おばさんは、屈託なく笑って言う。

「ところで、今リハーサルみたいなことをしてるみたいだけれど、兄ちゃんは行かなくていいのかい?」
おばさんは、丁度いい暇つぶしと思ったか、折りたたみ椅子のひとつに座り込んだ。
「いえ、僕は舞台とは関係ないもので。」
「でもさ、ここでの仕事だったら、舞台に関係しないってことはないと思うがなぁ。」
おばさんは、煙草を取り出しながら、そのように言う。
「マッチかライター、貸して貰えんか?」
どうやら、持っていないようである。
源次郎はポケットからマッチを出して差し出す。そして、机の端にあったアルミでできたちゃちな灰皿をおばさんの前においてやる。
「サンキュー、兄ちゃん。」

おばさんは、慣れた手つきで片手だけでマッチの火をつける。
そして、もう一方の手でその火を囲みこむようにして煙草に火をつける。
旨そうに、吸い込んだ煙を天井に向って、ふ〜っ!と吐き出して見せる。

ん?・・・源次郎は、その煙草の匂いに、何かを思った。

おばさんが吸っている煙草の箱を見て、源次郎は驚いた。
美由紀が吸っていたものと同じなのだ。
あの美由紀と同じ匂いがする。


(つづく)



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