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第2話 夢は屯(たむろ)する (その3)
大学を退学処分になって、半年ぐらい経ってから、初めて源次郎は実家に手紙を書いた。
そのときは、北海道の小樽に着いた直後だった。

大学を退学になったこと、しばらくは家にはもどるつもりがないこと、元気でやっているということ、そして、何よりお金がないこと、を書き連ねて投函した。

小樽に来るには、それなりの理由があった。つまり、当てがあったということなのだが、いざ行って見ると、現実は厳しかった。

大学の仲間で、同じように退学となった諸井慶介という男がいた。
東京に居るときは、親が大きな旅館をやっているからと、小遣いも相当に貰っているようで、羽振りが良かった。
同期生だったし、ゼミも同じだったのと、同じ次男坊でややのんびりしたところが互いにあって、おまけに下宿が近所だったから、本当の兄弟のように朝から晩まで一緒に行動していた。
その慶介を頼ろうとしたのだった。

だが、聞いていた住所番地に行くと、そこは大きな旅館どころか、小さな民宿のようなところだった。
中へ入って「慶介君は」と訊ねると、
「息子は勘当した。東京なんぞへ行かせたばかりに“アカ”に染まりおって。今、どこにおるかなんて知るか。あんたもその仲間か?」
非常な剣幕である。

「あんたも仲間か」と問われて、「そうです」と答えられない情けなさ。
「連絡もないんですか?」と聞きたかったが、それさえ言い出せない。
結局は、残り少ない金を払って安宿に泊まることになった。

もう頼るは、実家しかない、と手紙を書いたのだ。
「金なし、送金頼む」
昔、そのような電報があったと聞くが、まさにその心境であった。

それから数日して、その安宿気付で、現金書留が届いた。
差出人は母であった。
中には、5万円が入っていた。
一緒に入っていた小さく折りたたんだ便箋には、母の字で、こう書かれていた。

手紙読みました。元気ならばいいですが、母は心配でなりません。
大学の件、お父様の耳にも入っています。非常に心配しています。
とにかくも、一度、こちらに帰ってきてください。
今回の便りは、お父様にはお見せしていません。
お金も、私の出来る限りです。
このお金で、戻ってきてください。
母には、それしか言えません。
頼みますから、これ以上、母に心配をかけないでください。


源次郎の心は揺れた。
母の優しさが身に沁みる。
厳格な父が、今回の自分の件をどのように見ているかは想像がつく。
慶介の父がそうであるように、自分の父も悲しんで、怒りに震えているに違いない。

戻りたいという気持は強いものの、父の顔を思うと、怖くて帰れない。

送ってもらった金で、未払いだった宿泊代を精算して、源次郎は当てのない街へ出る。


(つづく)




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