第2話 夢は屯(たむろ)する (その28)
2人は、並んでホテルを出る。
美由紀はハンドバックをひとつ持って、源次郎は美由紀の化粧ケースを下げている。
「僕は劇場への道を知らないんですが・・・」と言ったのに、美由紀は「私が知っているから大丈夫よ」と言っていた。
車だと5分足らずだが、歩くとどれ位の時間が要るのかも分らない。
だが、美由紀が知っているというのだから、それについていくしか方法はない。
「小樽は来られたことがあるんですか?」
源次郎が尋ねる。
「・・・・・・・・・・そうね、ずっと昔だけれど・・・」
美由紀は、それしか答えない。
なのに、美由紀は、迷うこともなく道をどんどん行く。
一旦は小樽駅の前に出る。交差点をところで信号につかまった。
源次郎は、いつしか、一歩、美由紀の後ろを歩いている。
風が強い。
その風に、先ほどから美由紀のフレアスカートが煽られているのが気になって仕方がない。
下には、何も付けていないのだから・・・という思いが源次郎にある。
確かに、ストリップ嬢なのだから、見せて仕事になるのだが、こうした公道でそれが人の目に触れることを源次郎は可としないのだ。
信号が変わって、美由紀が歩き出す。
その後を、スカートの裾を気にしながらの源次郎が続く。
線路沿いの道に入ったとき、美由紀が源次郎に声を掛ける。
「源ちゃん、悪いんだけど、あの店でこの煙草買ってきて。」
そう言って、3千円と空になった煙草の箱を渡す。
「それで買えるだけ買って。お釣りは要らないから。」
それらを受け取った源次郎が道を渡って店へ入る。
どうやら、小さな雑貨屋のようである。勿論、煙草も売っているようだったが、果たして、外国製らしい美由紀が吸っているものがあるのかどうかは、甚だ疑問であった。
「煙草が欲しいなら、どうしてホテルで言わなかったのか?」と源次郎は思う。
こんな町の小さな雑貨屋ではなくて、ホテルのほうが例え二流であっても揃えやすいだろうに、と。
店には、年取ったおばあさんがひとり座っていた。
耳が遠いのか、源次郎が入って行っても、それに気付いていないようである。
そのおばあさんの目の前に回って、少し大きな声を出す。
「おばあさん、この煙草、置いてありますか?」
それでも、そのおばあさんは、ぼんやりと外を見ているようである。
さらに大きな声で、「おばあさん!」と言うと、
「そんなに大声出さんでも、ちゃんと聞こえとるよ。その煙草だったら、今、奥から持ってくるから、ちょっと待ってくださいよ。」
よっこいしょ、と掛け声をかけて、おばあさんは立ち上がって奥へ入る。
そして、直ぐに、ツーカートンを持ってくる。
「これで足りるのかな?僕は値段が分らないもんで。」と源次郎が預かったお金を差し出す。
「ああ・・・・、これでいいよ。丁度だ。・・・・・ところで、お兄さんは、あの表に立っている人の旦那さんかい?」
おばあさんは、冗談とも本気とも取れる言い方で訊いてくる。
「旦那さん?そんなわけ、ないでしょう。おばあさんは、あの人知ってるの?」
源次郎は、少し意外な展開に、そう訊きかえす。
「いやあ、ほんに、綺麗な人やなあ、そう思っただけで。・・・・・そうですか、旦那さんじゃないんですか。それは、失礼をしましたな。」
おばあさんは、それっきり、表を見ようとはしなかった。
受け取ったお金を、頭の上で拝むようにして、「有難うございました」とだけ言う。
源次郎は、なぜか、狐に騙されたような気持になったが、ともかくも、その煙草を持って、美由紀のもとへ戻った。
「有難う、源ちゃん。その煙草、良かったら、源ちゃんも吸ってもいいわよ。だから、預けとくね。」
美由紀は、そう言って、その先を急ぐようにその場所から離れて行く。
源次郎は、煙草のケースを小脇に抱えて、小走りにその後を追いかける。
(つづく)
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