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第2話 夢は屯(たむろ)する (その279)
「そうか、初孫ねぇ。お爺ちゃんにとっては、君の誕生が嬉しくてしょうがなかったんだろうね。だから、生まれる前から名前を考えていたんだ。」
源次郎は常識的なことを言う。

源次郎にも祖父母がいる。
父方の祖母と母方の祖父が今も健在である。
小学生の頃までは母方の祖母も健在だったが、源次郎が小学校の6年生になった年に亡くなっていた。
物心がついてから、親戚の誰かの葬式に行ったのはそれが初めてだった。

ただ、いずれの祖父母も、同じ家には住んではいなかったから、お爺ちゃん、お婆ちゃん、と言っても、遠い親戚のような感じがしていた。
だから、彼が言う「初孫の誕生を楽しみにする」というお爺ちゃんの存在には実感がない。


「でも、・・・・もう少し、男らしい名前にして欲しかった。」
中学生は、「達也」という名前は「小さい」「男らしくない」と感じるようだ。
「う〜ん、例えば・・・・・・?」
源次郎は、ふと訊いてみたくなる。
「じろう、とか、さぶろう、とかが付くのが良かったかな。
だから、源次郎っていうお兄さんの名前、格好が良いと思うんですよ。」
「でも、君は初孫と言われるぐらいだから、当然、長男でしょう?
普通さ、長男に“じろう”とか“さぶろう”なんて付けないよ。
それを言うなら“いちろう”ってなる。」
源次郎は命名の仕方を講義するつもりではなかったが、常識としての知識を口にする。

「“いちろう”は絶対になかったと思います。
お爺ちゃんが大嫌いな名前でしたから。」
彼、神代達也は、断言するようにそう言った。
「ふ〜ん、そうなのか・・・・・」
源次郎は、その“いちろう”という名前をどうして彼の祖父が嫌っていたのかは訊かない方が良いと直感で思った。

「達也君も、その“いちろう”っていう名前は好きじゃないんだね?」
彼にも同じ感覚がある筈だと思えた。
それは、それを外して、敢えて“じろう”や“さぶろう”を並べたことで分る。
だが、普通、人間は、嫌いなものを遠ざけるとき、それに類するものやそれを連想するようなものも避けるのがごく自然なことである。
それなのに、敢えて“いちろう”を連想させる“じろう”や“さぶろう”を口にしたのかが理解できなかった。

「そうですね。僕も嫌いな名前ですね。・・・・でも、決して忘れちゃいけない名前でもあるんです。」
達也は、自分の手元をじっと見るようにしながら、そう答える。
「やはり、そうなんだ。具体的な人物がいるんだね。その名前には。」
源次郎は、それ以上の答えを訊くつもりはなかったから、敢えてそう締めくくろうとした。
思春期にあって、なおかつ、今日、これから模擬試験を受けに行こうとする中学生にこれ以上の精神的な錘を抱かせたくはなかったのだ。


(つづく)



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