第2話 夢は屯(たむろ)する (その27)
「だからっていう訳じゃないんだけれど、いろいろ、嫌な言い方をしてごめんね。私の身体を見せたのも、言わば最終テストのようなものだったのよ。」
「テスト・・・ですか?」
「そう。いくら私の目には、大丈夫っていうように見えていても、やはり人間って、とことんのところまで行ってどうなるか、それが問題でしょう?だから、見せたの。変なことを考える子だと、あそこまでやれば、絶対に抱きついてくるものなの。それをしなかったし、私の身体に触っても、源ちゃんは源ちゃんでいてくれたから。だから、決めたの。源ちゃんと一緒でいいって。」
「そうなんですか、・・・・やっぱ、そうなんですよね。」
源次郎は、舞台リハを見ての様は正直に言えなかった。
「それとね、源ちゃんに、東京の匂いを感じたの。」
美由紀は、自分の鼻の頭を指差してそう言う。
「東京の匂いですか?・・・・まぁ、それは、そうかもしれません。僕も、1週間前には東京にいましたから。でも、その東京におられなくなって、この小樽まで来ちゃったんですけれど。」
源次郎は、東京での逮捕劇やそれに起因する退学処分、それからこの小樽に来ることになったいきさつなどを簡単に話した。
「そうだったの、・・・・・だからだね。東京の匂いがして当たり前なんだ。そっか、そうだったんだ。だったら、東京で、浅草で、私の舞台見たことない?」
美由紀は、悪戯っぽく訊いてくる。
「東京では、そんな小遣いもなかったですよ。一度も行ったことはありません。だから・・・・」
源次郎は、そこで話すのを辞める。
このまま話していると、先ほどのリハを見てどうなったのかまで話してしまいそうだったのだ。
「だから、裏切らないでね。」
美由紀は、初めて見せる笑顔でそう言った。
「こちらこそ、よろしくお願いします。何度も言いますけれど、この世界のこと、何にも知りませんから、ああしろこうしろと具体的に言ってくださいね。そうでないと、ほんと、何にも出来ませんから。」
「大丈夫よ。私のことをちゃんと考えてくれているし。私は、それ以上のことは望んでないの。ただ、こうして舞台から離れているとき、無性に人間が恋しくなるの。絶対にひとりでいられないの。だから、24時間一緒にいてくれる人でなきゃ駄目って言ってたのよ。」
美由紀は、源次郎を真正面に見据えて、それで話し終える。
「じゃ、そろそろ車呼びましょうか?」
源次郎は、そう言って、電話を取りかけた。
「源ちゃん、ぽつりぽつり、歩いていこうよ。」
美由紀がそれを制して、立ち上がる。
時間は4時30分になろうとしていた。
(つづく)
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