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第2話 夢は屯(たむろ)する (その26)
「もう少しは時間に余裕がありますから、何か飲まれますか?」
源次郎は、応接セットのソファーに戻った美由紀に心遣いを見せる。

「ううん。飲むとおしっこが近くなるから、舞台の前は飲まないようにしてるの。」
美由紀は、煙草を咥えながら、そう答える。
そして、火をつけてから、
「源ちゃんに、ちょっと話しておきたいことがあるんだけど。」と言う。

美由紀が何かを飲むだろうと思って備え付けの冷蔵庫を開けていた源次郎は、その中に何も入っていないことを確認して、ソファーのところに戻ってくる。

「あのさ、支配人から詳しいことを聞いてないみたいだけれど、明日から14日間、つまり2週間ね、あの舞台に立つ契約をしているの。それで、今日、東京から来たのよ。」
「それで、ポスターや看板が出されているんですね。そうですか、2週間もね。大変ですねぇ。」
「あははは・・・。大変なのは、源ちゃんも同じよ。だって、その間、私の専属スタッフなんだから、私と行動を共にするのよ。」
ソファーのところに立って話していると、美由紀が、座れと手で合図する。
源次郎も、美由紀の向かい側に座る。浅く腰掛ける。

「その、専属スタッフというのは、具体的にはどのような仕事をするんですか?何にも聞いてないもので、どうしたらいいのかって、分らないんです。」
源次郎は真顔で訊く。
「本当はね、私の身の回りの世話が出来るような女の子を付けてくれる様に言っておいたんだけれど、どうしても見つからなかったみたいなのね。まあ、ストリップ嬢の付き人なんて、やる子はいないわよね。まして、この小樽じゃあね。地元の子だと、ストリップ劇場に出入りするのですら顔が差すだろうしさ。」
「それで・・・・僕なんですか?どうしてですか?女の子を捜されてたんでしょう?」
源次郎が、そこで身を乗り出す。
「最初はね。確かに女の子を頼んでたわよ。・・・・・でも、あの劇場でさ、最初に会ったときに、この子だったらいいかな?なんて思ったの。直感ね。」
「どうしてですか?僕は、男ですよ。」
「うん、そうなんだけれど、あの世界にいる子じゃないな、と思ったのが最大の理由かな?それと、私は別に女の子に固執してた訳でもないの。本当は、性別なんて、どっちでもよかったの。ただね、おばちゃんとおじちゃんは駄目。つまり、年齢的には絶対に30までと決めているの。これは、小樽だからとか、そういうのではなくて、私の基本原則。東京でも、周りにいる子は、皆、20代よ。彼らは、ストリップをやる私に偏見がないから。」
「つまり、女の子でなくても、身の回りのことが出来れば、僕のような男でも構わなかったってことですか?」
その源次郎の言葉に、美由紀は、少し考える。

「20代だったら誰でもいいって事じゃないわよ。当然だよね。・・・だから、さっきも言ったけれど、最初にあの劇場で見たとき、ここの者じゃないって言ってたじゃない。その言い方っていうのかなぁ、自分でもよく分からないんだけれど、この世界で生きてる子じゃないんだっていう新鮮感かな。私を女として見ないでいてくれる子。そんな気がしたの。」
「そうなんですか・・・・」
源次郎は、初めて美由紀と出会った場面を思い出していた。

あれは、舞台リハを見て興奮しちゃって、その結果、下着まで汚して、それを鞄に隠した直後であった。
そりゃあ、男らしくは見えないのかも知れん、と源次郎は恥ずかしく思った。


(つづく)



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