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第2話 夢は屯(たむろ)する (その259)
「あはは・・・。支配人、その言い方って、まるで私が今回の騒ぎを扇動したみたいに聞こえるじゃない?」
美由紀は、支配人が言っている意味を分った上で、敢えてそのように言う。

「いやいや、思い立ったが吉日。そう思ったのかも知れんな。
サキは、ああ見えて、結構優柔不断なところがあって、今までにも、それで随分と辛い目に会ってきた。
だから、昨日、富があのような行動に至ったことや、ミッキーのお陰で、現実を目の前にして、いよいよもって迷っている時間はないと思ったんだろうな。
多少は唐突なやり方になってしまったんだが、サキにすれば、自分の決心が変わらないうちに行動に移しておきたかったのかも知れん。
だからだ、そういう点で、ミッキーに背中を押されたってことなんだと思うぜ。」
支配人は嬉しそうな顔で言う。

傍で黙って聞いていた源次郎も、事の顛末が理解でき、しかも、何かしらいい方向に向っているような思いがした。

「でも、サキさんもしっかりと考えてるわね。」
美由紀はサキを援護するような言い方をする。
「いや、まだまだ考え方は甘い。目の前の問題から直ぐに逃げる部分があるしな。」
支配人は手厳しい。
「支配人からすればそうかもしれないけれど、私は、サキさんが舞台に上がることを念頭においてあんな早朝から動いたんだと思うとさ、それだけで、同じ舞台をやる人間として何となく嬉しくなるのよね。だから、ちゃんと考えているんだって思ったの。」
「う〜ん、それだけは、俺も正直言って驚いた。
朝、旦那から連絡を貰ったときにゃあ、あちゃ!舞台に穴が開くって思ったからな。
ま、それが回避されただけでも、儲けもんだとは思ったんだが。」
「・・・・もし、サキさんが戻らなかったから、支配人、どうするつもりだったの?」
「もちろん、それはそれで対処は考えたさ。東京辺りじゃそんなことは滅多にないんだが、こうした地方じゃ、ちょくちょくあるんだ。皆、それなりの過去や事情を抱えてるしな。ある日突然に消える奴もいるんだ。
だから、急遽、舞台構成を変えるなんてことは、朝飯前だ。」
「そう、・・・・そうなの。・・・・・・じゃあ、美由紀が突然に消えても、舞台は何とか出来るんだ。」
美由紀が冗談半分、本気半分のような言い方をした。

「おい!・・・冗談はやめてくれ!ミッキーは別格だぜ。消えられたら、もうこの公演はお仕舞いだ。」
支配人は、なぜか真顔になって怒った。

美由紀はそれでもさらりと聞き流しているようだったが、源次郎は驚きを隠せない。
それは、支配人の言葉にではなく、美由紀が言った「消える」という言葉に対してである。
これだという具体的なものがある訳ではない。
だが、一連の美由紀との会話から感じていたモヤモヤとしたものが、「消える」というたった一言にものの見事に集約されたような気がしたのだ。

「美由紀さんは、この小樽から自分を消したいのかもしれない。」
源次郎は、そう思った。


(つづく)





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