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第2話 夢は屯(たむろ)する (その249)
「源ちゃんの今の鞄は、私が劇場にもって行くんだからね。」
美由紀が先手を打った。
源次郎の思いを察していたかどうかは分らない。

「えっ?・・・・どうしてですか?あんな汚れた鞄、必要なんですか?」
源次郎は、美由紀が言う意味がまるっきり分らない。
そんなもの、必要ないだろうと思うのだ。


「源ちゃん、“お守り”って持ってるの?」
混乱しかけている源次郎に向って、美由紀がまたまた方向違いのことを言う。
「お守りって、あの神社とかでもらう奴ですか?交通安全とかの。」
「そう。」
「いいえ、そんなものは・・・・・。」
「信じないの?」
「う〜ん、信じるとか信じないとかじゃなくて・・・・・。」
源次郎は、“お守り”などといったものにまったく興味がなかったのである。

源次郎は、無宗教である。
だが、意識して無宗教となっているのではなく、生まれてこの方、そうしたことを考える必要がまったくなかっただけである。
家には、仏間があったが、年に数回、何とかの法要だと言ってお寺のお坊さんがやってくる程度で、実際のところ宗派が何なのかさえも知らないのだ。
両親も勉強のことについては口やかましかったが、そうした宗教的なことを強要したり、口に出して説教するようなことはなかった。
強いて言うなら、正月には神社に初詣に、お彼岸とお盆には、お墓参りに家族の一員として連れて行かれるぐらいだった。

「ふ〜ん、そうなんだ。・・・でも、大学受験のときなんかに、“合格祈願”ってことで神社に行ったりもしなかったの?」
美由紀は、少し不満そうに言う。
「ああ、それは行きましたけれど。友達が行こうと言うから付いていきました。」
「付いて行っただけ?神様にお願いってしなかったの?」
「・・・・・・う〜ん、どうだっただろう?・・・・友達を真似て、パンパンと手を打って頭を下げたりはしたような・・・・。」
「だったら、その時に、“お守り”を買ったりしなかったの?ほら、皆、買うじゃない?」
「買ったりはしませんでしたよ。小遣いもなかったですし。」
源次郎の頭には、どこであるのか説明できないような古い光景がうっすらとしか浮かんでこない。
そう言えば、“お守り”を身に付けた記憶もまったくなかった。

「源ちゃんのおうちって、カトリックなの?」
美由紀は、そちらの方向へ考えを切り替えたらしい。
「いいえ、キリスト教なんかじゃありません。それはクリスマスのときだけです。」
源次郎は、何故、美由紀がそうしたことを訊くのかもわからないから、少しは笑える話をと思ってそのように言う。
だが、美由紀はその仕掛けに乗ってこない。微笑みも見せない。

「源ちゃんって、強いんだね。」
美由紀がそう締めくくった。


(つづく)



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