第2話 夢は屯(たむろ)する (その239)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
美由紀の沈黙が随分と長くなった。
というより、電話をかけてきた支配人の方がいろいろなことを一気に説明するかのように話しているようだ。
美由紀は、時折、相槌のようなものを打つだけで、自分からは何も言わない。
源次郎も、成り行きを見守るように、その傍でじっと息を殺すようにしている。
よくよく考えれば、2人とも裸のままである。
電話の話しは長引くと思った源次郎は、風呂場にとって返して、バスタオルを2枚取ってきた。
1枚は広げて自分の腰に巻く。
そして、もう一枚も広げて、美由紀の肩から掛けるようにして蔽ってやる。
少しは寒さを凌げるだろうとの想いである。
「あっ!・・・そうですか。・・・とうとうですか?」
美由紀はそう言ったかと思うと、受話器を持ったまま振り返って、辺りを見渡している。
「し・ん・ぶ・ん」
美由紀は、口の形で源次郎にそれを伝えた。
源次郎がソファに置いた今朝の新聞を美由紀に手渡す。
どこを見るのかわかっていなかったから、ページを開くことが出来ないのだ。
ついに美由紀が電話口を抑えて、
「藤波さんとのこの記事が載っているらしい。きっと社会面だと思うけど。」
と言った。
源次郎は、「うかつだった」と反省する。
そうだった。
昨日のタブロイド紙には、小さいがそんなことを予想させる記事があったのだ。
そして、支配人も「これが本当なら、明日の地元紙には大きく載るだろう」と言っていたのだった。
ばさばさする新聞を逆から開いていく。
社会面だとすれば、後ろから見たほうが早いと思ったのだ。
裏から1枚目を捲ると、そこに社会面があった。
上から、大きな見出しだけを目で追っていく。
「藤波」というキーワードを探して急ぐ。
下から3段目に、その言葉はあった。
源次郎は、その見出しだけを確認しただけで、記事の本文は読まないで、その部分を押し出すようにして、美由紀の前に置いた。
美由紀は、受話器を手にしたままで、その記事だけを拾うようにして読んだ。
「分った」というような顔を美由紀が見せた。
源次郎は、それを確認してから、改めて自分の手元に新聞を引き寄せる。
そして、その部分を同じようにして読んだ。
その記事によると、昨日、1回目の「不渡り」を出したそうである。
そして、今週末には次の期日が迫っているが、どうやら資金の手当てがつかないようだと書かれていた。
銀行は今日にでも「取引停止」措置を取る模様だとも書いてあった。
ほんの小さな扱いである。
藤波家との取引がないような一般市民であれば、つい見逃してしまいそうな記事である。
だが、サキのような立場の人間からすれば、そこに書かれている以上の大きな影響があるのだ。
美由紀と支配人の電話は、まだ終わらなかった。
(つづく)
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