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第2話 夢は屯(たむろ)する (その229)
翌朝になった。

遠くで、電話が鳴っている。
鳴っているのは聞こえてはいるのだが、身体が起きて行こうとはしない。

ベッドの中にいたままで、源次郎は手だけを一杯に伸ばす。
だが、そんなもので、電話に手が届く筈もない。
電話は、隣の部屋だ。

「源ちゃん、・・・・・電話・・・・・電話が鳴ってる・・・・」
美由紀もようやくその音に気がつく。
だが、これまた動こうとはしない。

2人ともが、まるでベッドに磔にでもなったようである。

そのうちに、諦めたのか、電話の音が止まる。
だが、ものの20秒ぐらいで、また激しく呼ぶ。
「起きろ、起きろ、起きろ!」と喚いているような感じだ。


ようやく、源次郎がベッドからのそりと降りる。
足が縺れて、スリッパさえもまともには履けない。
仕方が無いから、源次郎は裸足のままで、電話に向う。

「いくらサービスだからといっても、そこまで叩き起こさなくてもいいだろう?」
源次郎は、その電話はフロントからのモーニングコールだと信じていた。
「もしもし・・・・・」
生ぬるい声で出た。
「馬鹿野郎!・・・何度もかけてるのに、どうして出ない!」
支配人の声である。
「ああっ!・・・・おはようございます。」
「何を寝とぼけたことを言っているんだ。ミッキーを出してくれ!緊急だ。」
「あっ!はい、・・少し、お待ちを・・・」
源次郎は電話口を押さえてから、美由紀を呼ぶ。
「美由紀さん!支配人からです!・・・・なんだか知りませんけれど、緊急だそうです。」
寝起きで出にくい大声を出して呼ぶ。

「支配人から」という言葉で、美由紀は跳ね起きた。
隣の部屋からでもその動きがよく見えたが、まるで先ほどまでの美由紀とは別人がそこにいるような気がするほどシャープな動きである。
ベッドから降りると同時に傍にあったバスローブに袖を通し、スリッパを履く間に前をかきあわせて腰で止める。
そして、急ぎ足で源次郎のところへやってくる。

「おはようございます。今、シャワーを浴びていたものですみません。」
美由紀はそのように言い訳をした。

「サキが・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「えっ!それは、本当ですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

源次郎はその会話を傍で聞きながら、
「さあ、今日も、何やら大変だぞ!」
と思った。

窓の外を見ると、雨が降っていた。

(つづく)



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