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第2話 夢は屯(たむろ)する (その22)
「おぅ、吉岡君。機嫌よくやっているか?」
電話は、支配人からだった。
少しおちょくった言い方だと思う。
「別に、機嫌のいい悪いという話ではないでしょう?」
少し怒った口調で源次郎が言うと、
「いゃぁ、悪かった、悪かった。そんなつもりで言ったんじゃないんだが。。。」
支配人の方が、機嫌がいいという感じである。

「ところでだ、ミッキーにな、午後4時からの打合せでいいのか、って聞いて欲しいんだが・・」
少しだけ、ビジネスライクな物言いになる。
「ちょっと待ってください。今、確認しますから。」
源次郎は、そう言って、送話口を手で押さえる。
「あのう、・・・美由紀さん、支配人が午後4時からの打合せでいいかって訊いていますが・・・」

美由紀は、ソファに寝転がったままで、雑誌を見ているようだったが、少し考えるようにしてから、
「源ちゃんに任せるわ。」
とだけ答える。
源次郎は「そんな、任せると言われても・・・」と思ったが、先ほどからの美由紀とのやり取りから、再度訊きなおすことは避けたほうが良いような気がする。
時計を見ると、今は3時10分である。4時だと、あと50分。
だが、肝心の美由紀は、まだ裸の上にバスローブを羽織っただけの格好である。
着替えも必要だし、化粧もしなければならないだろう。
第一、最初に会った、あの劇場での化粧直しですら、10分以上もかかっていた。
そうなれば、かなりの余裕が必要だろうと思った。

押さえていた送話口をあけて、源次郎が言う。
「支配人、済みませんが、午後5時からにしてもらえませんか?」
「どうしても5時でないと駄目か?」
「はい、準備するのに、多少時間が必要なもので。」
「分った。じゃあ、吉岡君がこっちまで送り届けてくれるんだな。遅れないように頼むぜ。」
「はい、了解しました。」
それで、電話が切れる。

「美由紀さん、5時からということにしましたが、それで良かったですか?」
源次郎は、不安を隠しきれない。
我侭な奴は、任せると言ったくせに、それでいて決めたことに文句を言うものなのだ。

「うん。いいわよ。・・・・・でも、源ちゃん、えらいのねぇ。4時でOKしたら、怒鳴り散らそうと思ってたの。さすがに、私が見たとおりの人ね。気が利くというか、頭の回転がいいっていうか。」
美由紀は、そろりと起き上がってきて、そう言う。
源次郎は、何も言わなかった。褒められて、少しくすぐったい気もするが、美由紀の性格が何となく分ってきたように思えるのだ。

「じゃあ、源ちゃんの顔をつぶさない様に、そろそろ準備に掛かりますか。」
美由紀は、ソファから立ち上がって、ベッドルームの方へ歩いていく。
「それでさ、荷物の中に、グリーンの衣装鞄があるから、それを持ってきてよ。」
と源次郎に声を掛ける。

荷物は、ドアを入った直ぐ左手に、まとめておいてあった。
大小の鞄が7つ、衣装ケースのような箱が5つあった。
源次郎は、その中から、グリーンの鞄を探し出して、ベッドルームへと運んでいく。
衣装らしいが、結構重い。

部屋のドアが少しだけ開いている。
美由紀が意識して開けているのか、偶然にそうなったのかは分らない。
ドアの前に立つと、その間から室内が窺える。
そこでは、美由紀がバスローブを脱いで、鏡の前に全裸で立っているのが見える。

源次郎は、少しだけ開いているドアを、コンコンとノックする。
視線は、他を見る様にしている。意識して。


(つづく)


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