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第2話 夢は屯(たむろ)する (その21)
ひょっとすると、この美由紀という女の子は、凄いのかもしれない、と源次郎は思う。

東京での暮らしを思い返せば、さすがに女性のものはなかったが「全共闘」仲間の衣類は源次郎が洗濯することになっていた。
どういういきさつでそうなったのかは定かではない。定かではないのだが、気が付いたら、皆からそうしたことで頼りにされていた。
食事の準備などは女性のメンバーがやっていたが、食料の買出しや、その他の雑用も源次郎の担当となっていた。
何でも、嫌がらずに「はいはい」と聞くことがそうなった理由のような気がするが、そうした性格などをこの美由紀が見抜いて対応しているのだとしたら、これは本当に凄いことだと思う。

会ってからまだ1時間とちょっとぐらいである。
そんな短時間で、男ひとりを見抜けるものなのだろうか、という疑問は当然にあるが、単に支配人が自分を彼女専属のスタッフとしてあてがったからだけというのではないような気がする。
あの老獪な支配人ですら、どのように扱うべきかを決めかねていた筈なのだ。だから、あのようなリハを見せたに違いない。
それなのに、この美由紀と言う女の子は、ごく普通に源次郎を顎で使う。
それは、絶対に言うことを聞かせるだけの自信があるのか、それともそうしたことを一切考えない強引な性格なのかはまだ分らない。


脱衣籠の中からクリーニングに出す洋服だけを仕分する。
そうすると、籠の中には、下着類と薄いブラウスだけが残ることになった。
それを、今夜、自分が風呂に入ったときに洗うのだ。
それが女性物であると言うことさえ意識しなければ、東京での合宿と同じである。
まとめて、洗濯すれば良いだけのことである。
ましてや、これは誰のもの、ということを考える必要も無い。
相手はたったひとりである。

源次郎は、なんとなく、やれそうな気がしてきた。


洋服を手にした源次郎がバスルームから出て行くと、美由紀は、バスローブを羽織ったままの姿でソファーに横になっていた。
源次郎は、それを視界の端に止めながら、フロントへ電話をかけ、クリーニングサービスの受け方を聞く。
そして、そこで言われたとおりに、クローゼットの中にあったクリーニング用のビニール袋にその洋服を入れて、ドアの近くの下駄箱の上に置いた。
あとで、外出するときにフロントへ持って行くつもりである。

「源ちゃん、疲れた?」
突然、美由紀がそう訊いて来る。
「いえ、別に。そう大したこともまだしてませんから。」
と源次郎が答えると、
「うふっ、そうね。でも、私のスタッフをやってくれる気になったみたいで嬉しいわ。」
と美由紀が言う。

源次郎は、この一瞬がチャンスだと思って、
「あのう、ひとつだけお尋ねしてもいいですか?なんとお呼びすればいいのでしょう?」
と横になっている美由紀に訊く。
「・・・・・・。そうねぇ、源ちゃんは、何て呼びたいの?」
「・・・・・・いえ、僕がどう呼びたいかではなくて、何とお呼びすればいいのかをお訊きしているんです。劇場へ行くと、他の人たちもおられるでしょうから、変な呼び方だと笑われるでしょうし。」
「支配人や劇場の関係者は私のことをミッキーって呼ぶけれど、私は、本当は好きじゃない。あの呼び方。」
「でしたら、どのように?」
「好きに呼んで。源ちゃんの好きな呼び方でいいわよ。私も、源ちゃんのこと、勝手に源ちゃんって呼んでるんだから。」
「・・・・・・・・・・」
源次郎は困ってしまう。

「佐崎美由紀さんというのは、芸名ですか?」
「そうよ。母が付けたの。」
「へぇ〜、お母さんがお付けになったんですか。そうなんですか。じゃあ、美由紀さんと呼ばせてもらってもいいですか?」
「うん、源ちゃんがそう呼びたいのなら、それでいいよ。」
美由紀は、こだわりの無い言い方をする。
「あっ!でも、母のことは内緒ね。誰にも言わないで。源ちゃんにしか言ってないんだから。」
「はい、分りました。大丈夫です。」

そうしているとき、部屋の電話が鳴った。
源次郎が受話器を取る。


(つづく)



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