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第2話 夢は屯(たむろ)する (その209)
源次郎はその洗面台で顔を洗った。

美由紀がどのような思惑で口紅をつけていたのかはわからない。
そして、口紅をつけた状態で、あのようなキスの仕方をすれば源次郎の顔がどのようになるのかを知った上でやったことなのかどうかもわからない。

だが、いくらなんでも、このままの顔でいるわけには行かないと思ったのだ。


源次郎が顔を洗い終わったとき、風呂の湯が溢れる音がし始める。
それを止めに行ってから、美由紀が寝ているソファーに戻る。

まだ、寝ているようだ。
だが、先ほどとはまた微妙に寝姿が変わっている。
どうやら、小刻みに寝返りを打っているようだ。

改めて「どうしようか」と迷う源次郎である。
起こすか、それとももう少しだけこのままで寝かせておいて、眠りが深くなったところを見計らってベッドに運び入れるか。


その時だ。
「源ちゃんさ、・・・・・どうして、止めたりなんかしたの?」
美由紀の声がした。

「あっ!起きたんですか?」
源次郎は少し慌てたが、そう答える。

「今夜は、何もかも忘れて、源ちゃんに抱かれたかった。
なのに・・・・・・・。」
美由紀は向こう側を向いたままで話してくる。
起き上がったり、向きを変えて、こちらを見て話そうとしたりはしていない。

「・・・・・・・・・・・・・」
源次郎は、何も言わなかった。いや、言えなかったのかもしれない。

「女の子がね、日頃と違うものを身に付けたり、日頃はしないお化粧をしたりするってことが一体どういうことなのかって、源ちゃん分らない?」
「・・・・いえ、そんなことはないですけれど。」
「だったらさ、美由紀がどうして、パンツをはいたり、口紅をつけたりしたのかって、わかってるんだよね。」
「・・・・・まあ、・・・・それなりには・・・・」

「嘘!・・・・源ちゃんのうそつき!」
その言葉を残して、突然に美由紀が飛び起きた。
そして、そのまま、トイレに入ってしまう。

暗い部屋の中に、一瞬だが、美由紀が点けたトレイの明かりだけが、そのドアを開けたときに美由紀の姿を照らし出していた。

「泣いているんだ・・・・・・。」
源次郎は、それだけを感じた。

いつもはトイレには行っても、中から鍵を掛けたりはしない美由紀なのに、今回は大きな音をさせて施錠した。

源次郎は、「女ってわからない」と溜息をつく。


(つづく)




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