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第2話 夢は屯(たむろ)する (その20)
「今、何て言いました?」
源次郎は聞き返す。

「だからさ、源ちゃんは私の専属になったんだから、ここに荷物を持ってきてね、って言っただけよ。何か、おかしなこと言った?」
美由紀は、真顔でそのように言う。

「あの、ここへって、この部屋にってことじゃないですよね?」
「あははは・・・・。言っておきますけど、別の部屋なんて取るお金ありませんからね。もちろん、この部屋によ。当たり前でしょう。」

源次郎は絶句する。
いくら、専属だといっても、24時間一緒に行動しろってことはないだろ。それは、あまりにムチャすぎる。いくら我侭な子だと分っていても、それだけは許せない。まるで召使じゃないか。

「あら、支配人には、それが可能なスタッフをつけてもらうという条件で来たんだけどね。違うのかしら。じゃあ、もう一度、支配人に電話しなくちゃね。」
美由紀は、まさに真剣である。電話をかけようとする。

慌てて、源次郎がそれを制止する。
「分りましたよ。ご一緒すればいいんですよね。荷物と言っても、鞄ひとつですから、直ぐに取ってきますけれど。」
源次郎は、既に諦めていた。
もう、なるようにしか、ならないんだと。そして、その結果がどう出ようと、俺なりにやれるだけのことをやったうえであれば、それはそれで仕方が無い。
そう、思っていた。

「じゃあ、今日の夕方から舞台の打合せをすることになっているから、一緒に劇場に行って、そん時に持って帰ってくれば丁度いいじゃない。」
美由紀は、たんたんと言う。

源次郎は、当然だが、こうしたストリップの世界は知らない。自分が今させられようとしているような立場の人間が存在するのかどうかも分らない。
だが、ともかくも、行く当ても無い自分を、食べることと、寝ることについて保証してくれると言うのだから、ありがたいと思うことにした。
次第に、支配人やこの美由紀の罠にどっぷりと嵌りそうな気がするが、それでもいいや、とも思っている。
大学じゃあるまいし、途中退学したって、もうこれ以上剥奪されるものも無い。
まさか、命まで取るとは言わないのだから。

どこかに、負け犬根性が付いてしまっているのかもしれない。
それとも、持って生まれた性格からなのか。


源次郎は、言われたとおり、床に落ちているバスタオルを拾い上げて、バスルームに持っていく。
これから、どうなるのかと言う不安もあるが、何となくほっとする気持もある。
割り切れば、東京での生活のように、人の言うことに黙ってしたがっておけば何とか日々が過ごせる。
そんな感覚が戻ってきたような気がするのだ。
もう、格好を考える必要は無いのだ。ここは、東京でも、大阪でもない。
自分を知っている奴もいない。
気が楽になっていく。

そこで、先ほどの脱衣籠を見る。
先ほどと違うのは、「これをどうするか、訊いておこう」という気持になったことである。

「・・・・・・。この洋服などは、どうすればいいのですか?」
源次郎は美由紀に聞こえるように、少し大きな声を出す。
だが、美由紀をどう呼んでいいのか分らずに、最初の主語が飛んでしまう。

「それ、後でいいから洗っておいてよ。洋服だけはクリーニングに出して。」
美由紀は、ごく当たり前のようにそう言う。
「洗濯機もありませんが・・・・・普通に手で洗えばいいのですか?」
源次郎は、わざと、バスルームから出て行かないで確認する。
女の子が、男の俺に、自分の下着を洗ってくれと言っているのである。
まともな神経だとは思えないのだが、それを真正面に聞けない自分も情けない。

「うん。使う洗剤は、荷物の中に入っているから、後で整理したら出てくるわ。お風呂に入ったときに、ついでに洗ってくれればいいわよ。源ちゃんのと一緒に洗っても、文句は言わないわよ。」
「はい。分りました。夜でもいいですか?」
「うん。」

何とも不思議な会話である。


(つづく)




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